「わたしね・・・」
「ん?」

ぽつっと小さな声で切り出した。

「わたし・・・まりあにね、16年間ずうっと・・・ずうっと隠してきたことがあるの・・・」
「・・・・・・」
「絶対に秘密のこと。たったひとりの双子の妹にも言えない隠し事」
「へぇ・・・?」
「でもね、いつか・・・いつか言わなきゃいけないって思ってたの。 いつか、絶対言わなきゃいけない時が来るって」
「うん・・・」
「それが、この間ね・・・ちょっと油断した時にバレちゃった・・・」
「・・・・・・」

胸がつまる。何か、どうしようもない気持ちが喉元までせりあがってくる。
あの日の、あの瞬間が頭の中でよみがえる。
まりあのあんな顔・・・わたし初めて見たの・・・。
拒絶という文字がくっきりと浮かんだあの日。現実を突きつけられた日。
わたしが“人間でない”ということを、みんなとは“違う”ということを改めて知ってしまった瞬間。

「大事な妹に・・・たったひとりの妹に・・・16年間も、生まれたときから隠してきたの」
「・・・ん」
「自分の口から言うんなら仕方ない。でも・・・覚悟もなんにもできてなかったから・・・」
「・・・・・・」

ぽろっと涙がこぼれて、頬を伝った。
まりあにバレてしまったときには泣かなかったのに・・・なんで今さら・・・。

「ショックだったの・・・。受け入れてもらえるとは思ってなかったけど、拒絶されたことが 思った以上にショックでっ・・・わたしっ・・・っ」
「あくあ・・・」
「きっと、どこかで期待してたの。“まりあならわかってくれる”って。“まりあなら大丈夫”だってっ。 でもっ・・・・・・っ」
「あくあ」

ぎゅっと優しく、辰星が抱きしめてくれた。
いつもの暖かい腕とぬくもり。優しい声。

「辰星・・・っ」

ほろほろと涙がこぼれては頬を伝ってすべり落ちる。
そう、どこかで期待してた。
『まりあはわかってくれる』っていうことを。
でも、現実は違った。
当たり前といえば、当たり前の反応。罵声を浴びせられなかっただけマシなほう。
拒絶だけなら・・・軽い方だと思ってる。
でも、でも、それが一番・・・痛いんだ・・・。

「わかってる・・・いけないのは、悪いのはまりあじゃなくてっ・・・ずうっと隠してきた ・・・秘密にしてたわたしが悪いのっ。 不用心だったわたしがいけないの。わかってるんだけどっ・・・ っ・・・」

返事の代わりに、辰星がぎゅっと腕に力をこめた。

「っ・・・どうしてだろうね・・・まりあの前でも泣かなかったのにっ・・・なんでっ・・・」

「・・・いいよ、泣いて・・・」
「っ」
「あくあが安心して俺の前で泣けるなら、・・・いいよ」
「・・・・・・ありがとっ・・・」

優しい・・・この人はどこまでも優しい・・・。
そんなあなたが大好きなの。

この瞬間で、ほら、また好きになる。

でも・・・そんなあなたにもわたしは最大の隠し事をしている。
いつかは言わなくちゃならないかもしれない。
わたしから「さよなら」を告げれば、言わなくていいかもしれない。
言ったことで「さよなら」を告げることになるかも知れないけれど・・・。

わたしはあなたの言葉を信じたい。
わたしがわたしであるならかまわないよって言ってくれた、その言葉を信じたい。
ひとつの小さな希望の言葉に、明かりが灯るかどうかわからないけど・・・。

それにね・・・傷つくなら今でいい。あとで傷つくかも知れないのなら、今でいい。
辛いだろうけど・・・もっと好きになってからじゃ、遅いから・・・。

でも、もしかしたら受け入れてくれるかも知れない。
そうすれば、きっとまりあとも正面からぶつかっていけると思う。
悲しい涙はこぼさなくていいかもしれないでしょう?

ねえ、ひとつ、賭をしてもいいですか・・・?