まりあと仲違いしてからちょうど2週間たった日曜日。
辰星とデートと言う名のお買い物に街に出た。
でも、きっと、わたし、ずっとうわの空だった。
いつも気がつけば楽しんでいないわたしがいた。

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「・・・・・・なぁ、あくあ」
「え、何?」

公園の木陰のベンチに座って一休みしていたら、わたし、どうやらまたぼーっとしてたみたい。
急に話しかけられてハッと我に返った。

「どうかしたか?最近様子が変だぞ?」
「・・・え?変?わたしフツーにしてるつもりだったんだけどなぁ・・・」
「授業中とかうわの空じゃん。いっつもすらすらとく英語の文章も歯切れ悪かったし。 廊下でよく人にぶつかってるし。空笑いだし」
「・・・・・・」
「まりあちゃんとケンカでもした?」
「え?」
「最近一緒にいないだろ」
「・・・気づいてたの・・・?」
「ま、ね」
「・・・うん・・・ケンカっていうか・・・なんて言うか・・・」
「・・・俺に出来ることがあれば言ってくれよ。相談くらいならのるしさ」
「・・・・・・・・・」
「な?言っちゃった方が楽になることもあるし。話すことで頭の整理が出来るって言うしな」

辰星は、わたしに優しい。
それはいつものこと。いつも彼は誰に対しても優しい人。
どこまで言っていい?
わたしは彼にどこまで話していい?
これからつきあっていくのなら、辰星にも必ず言わなければ行けないときが来る。
わたしが人魚だと告げなければいけない時が来る。
ねぇ、その時、辰星はどうする・・・?


「ねえ・・・もしも・・・もしも、よ。わたしが人間じゃなかったらどうする?」
「え?」

唐突なわたしの質問に辰星が疑問符を浮かべた。

「拒絶する?わたしのこと嫌いになっちゃう?」
「んーーーーーーーー・・・・・・そうだなぁ・・・」

辰星が明後日方向を向いて言った。
こんな変な質問、ちゃかされるかな?

「ものによるなぁ・・・熊とか、宇宙人とか、 あくあの姿形がぜーんぜんなくなっちゃって、全く別のものになっちゃったら、 逃げるかも」
「え?」
「あ、いっとくけど、見た目だけであくあを好きになったわけじゃないよ? でもさ、そりゃぁ、影も形もなくなっちゃったら・・・ちょおっとなぁ・・・」

ぽりぽりと辰星が顔をかく。
人魚は影も形もなくなるわけじゃない。
わたしはわたしのまま。でも、人間じゃないの・・・。

「あ、でもさ。天使とか人魚とか妖精ならいいかも」
「えっ」

“人魚”の言葉に心臓がドキッと強く波打った。

「あー、でも実在するかわかんないけどさ。でも、そーゆーのだったらいいかもな。 だって、あくあがあくあじゃなくなるわけじゃないだろ? それなら俺はかまわない・・・かな」
「辰星・・・・・・」

そっと頬をなでられる。
あたたかい手。
いつも、わたしを救ってくれるんだ。
ねえ、本当に私が人魚でも構わないって思ってくれてる?
それとも、天使や人魚なんていないだろうから、なんて適当に言ってるの?
ここにいるよ。ちゃんと実在してるよ。
天使も人魚も妖精も・・・いるんだよ・・・。
ねえ、本当にわたしがわたしであるならかまわない?
わたしがわたしじゃなくならなければ、好きでいてくれる?
本当に・・・?
こんなに優しい人を、こんなに誠実な人を、疑ってしまう自分が少し悲しいけれど、 でもね、・・・恐いのよ・・・まりあのように拒絶されたらって・・・恐いの・・・・・・。