日曜日の午前。
早起きが大の得意のまりあとは違って、すこしお寝坊なわたしは10時頃に朝食を取り終わった。
「あれ?お母さん、まりあは?」
「んー?外にいるんじゃない?朝からなんかの種買ってきたみたいではりきってたから」
「そっか」
初夏といえども、暑い日が続く。
今日も夏みたいな暑さがやってきていた。
ガラガラッ。
庭へと続く大きな窓を開けた。
「おはよう、まりあ」
「あ、おはよー、あくあ。遅いよー」
「まりあが早いだけだよっ」
いつも置いてあるサンダルに足を通す。
まりあは園芸が大好き。うちの庭はほとんどまりあのものと言っていいほどなんだ。
おかげで、いつも綺麗な花が咲いてる。クリスマスにはツリーのようなゴールドクレストを
飾りつけてライトアップまでしちゃってるんだ。
サアアァァ・・・。
まりあがシャワー状の水を草花にあげる。
ほんと、好きだよねぇ・・・。
「ひまわり、だいぶ大きくなったね」
「うん!今年も元気に咲くと思うよー。あれ?そういえば、今日は藤咲君とデートじゃないの?」
「辰星 、今日は部活だって」
「へぇ〜。めずらしい。サッカー部だっけ?」
「そう。なんか他校で練習試合らしいよ」
「練習試合ね〜。このあっつい中大変だね」
「運動部の宿命でしょ」
「あははっ。確かにね。ま、園芸部も屋外だから人のこと言えないけどね」
「そうよね〜。まりあ、ちょっと焼けたでしょ」
「あ、バレた?日焼け止め、ついつい忘れちゃうの」
「あとで後悔しても知らないよ〜」
「はーい。気を付けます」
きゅっとホースの先をひねって、まりあが芝生に水をやるために水を霧状にした。
水・・・。水は好き。でも恐いものでもある。
あれっ。そういえば、今日真珠・・・。
パッと胸元に手をやる。腕を見てもブレスレットはしてないし、ピアスは今日はしてない・・・。
っということは・・・今は真珠をしてないってこと!?
やだ、昨日寝る前に外してそのままなんだっ。
「あくあー、水止めてきてーっ」
「え、あ、うん・・・」
蛇口のところまでいく。大丈夫だよね・・・わたしは力の弱い人魚だもの。 水に触れただけで
変身しちゃうような子じゃないもんね。
きゅきゅっと蛇口をひねる。
「ちょ、あくあ!逆逆!」
「え?」
まりあの声に振り返った瞬間。
ザアア・・・。
水がわたしに降りかかった。
まりあがわたしの方を向くのと、わたしがまりあのほうを向いたタイミングが一緒だったみたい。
さっすが双子・・・なんて思ってる場合じゃない。
やってしまった・・・。
ぺたんっと地面に座り込む。だって、立ってはいられないから。
脚はしっぽに変わってしまったから。
力の弱いわたしは服は着たままなのが救いなのかなぁ・・・。
レモン色のしっぽがぴちっと水に反応してはねた。
「あ・・・くあ・・・?」
カランッとまりあがホースを取り落とす。
ザアアア・・・。水は出たまま、虹を作っては地面にたたきつけた。
これは16年間、双子の妹に秘密にしてきた罰ですか・・・?
「あくあ・・・その姿・・・」
「・・・へへ、ばれちゃった・・・わたし見ての通り、人魚なのよ」
空笑いしながら応える。本当は泣きそうだよ・・・。
「・・・うそでしょ?なんかの冗談でしょ?だって、あたしは人間でっ・・・」
「でも、・・・わたしは人魚なの・・・」
「あくあは人間じゃないの・・・?あたしのお姉ちゃんじゃないの・・・?ねえっ・・・」
「まりあっ」
「いやっ!来ないでよ!!あくあなんて、もう知らないッ!」
そう叫ぶと、まりあはバタバタと家の中に駆け込んだ。
「・・・・・・・」
きゅきゅっと上半身で届いた蛇口をひねった。
虹を作り出していた水が止まる。
「そうだよね・・・ずっと・・・隠してたんだもん・・・拒絶されて当たり前だよね・・・こんな身体・・・」
うっすらと涙がにじんだ。
キラキラとまぶしく輝く太陽がわたしに照りつける。
脚じゃない、わたしのしっぽをくっきりと浮かび上がらせる。
今、この瞬間ほど、人魚であるということをイヤだと思ったことはないよ・・・。
どうせ知られてしまうのならば、きちんと話したかった。
こんなかたちで知られたくなかった・・・。
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それから一週間。
まりあはわたしのことを避け続けた。
学校ではクラスが違うから会わない。
家でもわたしより早く出て、早く帰ってくる。
家族で食事をとっていても、目も合わせてはくれなかった。
まさか、こんなふうになるとは思わなかった。
お母さんには「ケンカでもしたの?早く仲直りしなさい」
なんて言われるけど・・・ 「ごめんね」で済むケンカなら、とっくに仲直りしてる。
そんなに簡単なことじゃないのよ・・・。
どうしたらいい?
わたしは何が出来るの?
どうすれば、まりあにわかってもらえるの・・・?
わたしたちが双子の姉妹で、まりあがわたしの妹であることに、変わりはないのに・・・・・・
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