『 猫 と 手 紙 』


「なーん」

いつもと同じ時間、いつもと同じようにルネが私の部屋を訪ねてきた。
そして、いつもと違って、ルネは私の膝の上にちょこんと座った。

「おはよう、ルネ。いらっしゃいませ」
「なーん」

そして、リボンに結ばれた、優しい月の光の色をしたメッセージを見つけた。

「あら、あなたのご主人様からかな?ちゃんと私のメッセージを届けてくれたのね」
「なーん」

そっとリボンをほどいて、カード取る。
綺麗に整った流れるようになめらかな文字が、私への言葉を綴っていた。

「・・・・・・ありがとう、ルネ」

ゴロゴロと喉を鳴らして、ルネが丸くなった。

「あなたのご主人様は秋穂さんっていうのね」
「なーん」

少しだけ首を持ち上げてルネが返事をした。

「素敵な方?」
「なーお」
「そう・・・。いいわね、私も秋穂さんに会ってみたいわ。だってルネのご主人様でしょう?とっても素敵な人だと思うのよ」
「な〜」

秋穂さんのことにはちゃんと返事を返してくるルネ。
きっと、秋穂さんのことがすごく好きなのね。

「いつか、私にも秋穂さんを紹介してね、ルネ」
「なーん」

そして、私はまた秋穂さんに宛てたメッセージを書いた。
小さな小さな文通みたいで嬉しいから。
郵便屋さんじゃなくて、クールな猫が運んでくれるのが可愛いと思う。




午後3時頃。
いつものようにルネが窓辺で外を確認したあと、トトッと軽い足取りで私のもとにやってきた。

「なーん」

小さく鳴く。

 『今日は秋穂に何もなくていいの?』

そう言っているかのような眼差し。
ルネにはちゃんと私達がしていることがわかってるんだね。

ほどいてあった、真昼の月の色をしたリボンにカードを通して、やさしくルネに巻く。
きゅっと蝶結びをして、完了。

「なーん」

リボンを結び終えると、ルネが一声あげて、すっと立ち上がった。
ルネは本当に、優しくて賢い猫だね。

「今日もありがとうね、ルネ」

そっと優しく身体を撫でる。

「なーん」

ぺろっと私の手を舐めると、ぴょんっと出窓に飛び乗った。

「秋穂さんによろしくね。また明日会いましょう」

そう言うと、ルネはいつものように

「なーん」

と優しい声で鳴いて、器用に窓の隙間を抜けて帰っていった。

秋穂さん…。
ルネのご主人様。
きっとすごく素敵な人だと思うの。だって、あんなにルネに愛されてる。
動物に愛されている人はとても・・・とても素敵な人だと思うから。
言葉が通じない相手からも好かれちゃうんだものね。
どんな人なのかな・・・いつか・・・逢わせてね、ルネ。