『 夜 月 と 猫 』
夕方、午後6時半。
冬のこの時間は、まるでもう夜中なんじゃないかと思わせるほど暗く、月が綺麗に輝く時間。
「ただいま、ルネ」
カチャリと扉を開けると、ソファの上でくつろいでいたルネがぴくっと耳を動かして、
「なーん」
ひとこと鳴く。
「おかえり、秋穂」
そう、言っているかのように。
制服を脱いで、服を着替える。たいてい、ロングスカートのワンピース。
暖房が程よく効いている我が館では、厚着なんて無用。
ルネと、向かい合わせになっているソファに腰掛ける。
すると、いつもならまた丸くなるだけのルネが、とととっと軽い足取りで私のところまでやってきて、
ちょこんっと膝の上に丸くなった。
「どうしたの?ルネ」
「なーん」
見てみると、昨日つけてあげた真昼の月の色をしたリボンに、一枚の紙がひらめいていた。
「・・・これを私に?」
「なーん」
そこには、可愛らしい文字としっかりした文章があった。
「・・・・・・ルネったら、やっぱりお散歩していたのね。この瑞穂さんのところに通ってるの?」
「なーん」
「可愛らしいお嬢さん?」
「なーん」
「そう、じゃあ、私もお返事書かなくちゃね。ルネ、届けてくれる?」
「な〜・・・」
眠そうにあくび混じりにルネが答えた。
「ありがとう」
ルネのリボンをほどいて、カードを取り外した。
「瑞穂さん…か。ルネが気に入って会いに行くくらいなのだから、素敵なお嬢さんなのね」
ルネが私の行動を察したのか、私の膝から飛び降りると、お気に入りのベッドの上に飛び乗った。
小さな夜月色のカードを取り出してメッセージを綴った。
『瑞穂さんへ
初めまして、素敵なカードを有難う。
ルネと仲良くして頂いて嬉しいわ。これからもお相手してあげて下さいな。
こうやってやり取りが出来るのって素敵ね。
秋穂』
そして、次の朝。
いつものようにルネが私をおこすために頬を舐める。
いつものように着替えをして食事をとって、 いつものようにルネを膝の上で撫でながら時が過ぎるのを待った。
「秋穂お嬢様、支度が整いました」
「ありがとう」
いつものように、迎えのメイドさんが来る。
ぴょこんっと膝から飛び降りて私を見上げるルネに、
真昼の月色をしたリボンに夜月色のメッセージをつけて、きゅっと首に巻いた。
「今日も瑞穂さんのところに行くのでしょう?よろしく届けてね」
「なーん」
窓を少し開けておく。
そしてルネはいつものように私の脚をぐるりと一周して、
「なーん」
ひとこと鳴いた。
今日もいつもと同じ朝。
だけれど、いつもとは違う朝。
ルネが運んできた・・・素敵な朝。
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