『 猫 と 真 昼 の 月 』
「なーん」
そう、ひとこと鳴いて、窓の隙間から器用に私の部屋に入ってくる猫。
クールグレーの肌に、ブルーアイの綺麗な猫。
彼は毎日のように私のところにやってくる常連さん。おとなしくて優しい猫。
秋の終わり頃から、ひょっこり、私を訪ねてくれる。
私はというと、病気のために一日中ベッドの中にいなければいけない身。
そんな私のところに毎日やってきて、何をせずとも居座る、この猫が私は好き。
だから、お母様が『寒いから窓を閉めなさい』と言っても、私は窓を開けるの。
たったひとりの友達を向かい入れるために。
今日も彼は決まった時間にやってきた。
午前9時半。
ゆっくりとした足取りでやってきて、一言鳴いてから入ってくる。
『おはよう、瑞穂。今日もお邪魔しますよ』
そう、言っているかのように。
そっと私に寄り添ってから、彼はベッドの上で丸くなる。
たまに、窓から外の様子を見つつも、また丸くなる。
私が本を読んでいるときも、編み物をしているときも、音楽を聴いているときも、絵を描いているときも・・・。
私の空気に同調してくれる彼は、とても居心地がいいんだ。
ある日、彼は綺麗な真昼の月の色をしたリボンを巻いて現れた。
「あら、あなたリボンをしてもらったの?」
「なーん」
いつものように私に寄り添う彼。
「ご主人様に怒られてない?勝手に出歩くなって」
そういうと、彼はぺろっと私の頬を舐めた。
「そう。・・・素敵なリボンね。あら、名前が書いてあるの?」
彼と同じクールグレーの糸で刺繍されたローマ字。
「LUNE・・・。あなたはルネっていうのね?」
「なーん」
ルネ・・・。
これでやっと、あなたを名前で呼べるわね。
素敵な名前。まるで、ご主人様が気遣って私に教えてくれたみたいね。
「ルネ・・・素敵な名前ね。あなたのご主人様、センスがいいわ」
ゴロゴロと喉を鳴らしながら腕にからみつく。
「ふふっ。いつも有難う。そうだわ、あなたのご主人様にも御礼を言わなくちゃ。
こんなに素敵な猫ちゃんを昼間貸していただいてるんだもの」
私の右隣で丸くなったルネをそっと撫でる。
「なーん」
ルネが優しく一声あげた。
小さな紙にメッセージを書く。
『ルネを昼の間お借りしています。
素敵なひと時を、素敵なこの子と過ごさせてくれて有難うございます。
瑞穂』
パチンっとひとつ穴を開けて、ルネのリボンをほどいて穴に通した。
そしてまた、ルネの首にリボンを巻いた。
「ご主人様によろしくね」
「なーん…」
少し眠そうな声をあげた。
そして、ルネはいつものように三時頃に窓から空を見上げて、
「なーん」
一声私にかけて、ルネは窓の隙間から器用に帰っていく。
きっとルネはご主人様が帰ってくる前に帰るのね。
ご主人様を迎えるために。
今日も素敵な時間をありがとう、ルネ。
ご主人様に瑞穂がよろしく言ってたって伝えてね。
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