「おはよー」
「おっはよー」
「おはようー」

学校の教室の中、朝の挨拶が飛び交う。
あーあ・・・どーしてこーゆー日に限って大好きな授業ばっかりなの?
気分はそんなんじゃないのに・・・。
魔法史でしょ、占い学でしょ、呪文基礎。
実習だって、最近は特訓の成果あって、ちゃんとできるから楽しい。
でも、昨日の今日じゃなぁ・・・。
あみも朝からどんよりだったし・・・。
しかたないか・・・時間割までは変えられないもんね。

「はーい席に着けー。ホームルーム始めるぞー」

ガタガタとみんなが席に着く。 そして、一日の授業が始まった。





「あうー・・・」
裏庭を散歩する。
放課後、普段なら空でも散歩するんだけど、今日は土を踏みしめたい気分。
季節は秋。 カサカサと落ち葉を踏みしめながら歩く。
このニオイと音があたしは好き。

「・・・ちゃん」

かすかに誰かの声が聞こえた。
こっそりと木の陰からのぞき込む。

「あみ・・・」
「・・・・・・」

げげっ。 今、最も会いたくない人物二人!

盗み聞きするつもりはないんだけどぉ〜・・・ここからじゃ逃げられないよ。
瞬間移動の魔法とか、姿くらましの魔法とかまだ習ってないんだからっ。

「ねえ、隼人ちゃん何なの?わたしを呼び出して・・・」
「・・・や、なんかすっきりしないから言っとこうかと・・・」
「なにを?」

ドキドキするー・・・。
あたしが言われてるわけじゃないのにドキドキするよー・・・。
隼人が呼び出した・・・んでしょう?
一体何の話なんだろう・・・?

「俺さ、ほんというと・・・あみのこと好きだった」
「え・・・」
「俺、ずっとあみのことが好きだったんだ」
「でも・・・」
「今は・・・違うんだ」
「・・・・・・」
「今は、みあのことが好きなんだ」
「みあを?!」

あみがすごく驚いた声をあげた。
そうだよね・・・妹の名前が出てきたら、驚くよね・・・。

「ああ・・・」
「・・・どうして?たしかにみあはイイコだし・・・」
「あみとは正反対だけどさ、好きになっちゃったんだよ・・・」
「・・・・・・」
「いっつも前向きで、何があっても諦めなくて、ひたすらにやってる姿見てると元気になれるんだ。 人が見てるときにはいっつも元気だけど、ときどきすごく・・・切なそうな瞳するんだよな・・・。 そんなみあをみてたら・・・好きになってたんだ・・・。ごめんな、あみ・・・」

隼人・・・そんなふうにあたしのことを見ててくれたの?
とくん・・・とくん・・・。
心臓がいつもより早めのリズムをきざんでる。

「・・・そっかぁ・・・。仕方ないよね・・・好きになっちゃったんなら・・・どうすることできないもん・・・。 ひとの心を変える魔法なんてこの世には存在しないし・・・ね。わたしだってみあのこと大好きだから・・・。そっか・・・」
「あみ・・・」
「それに、わたしのこと好きでいてくれた時間があったんでしょ?それだけで十分だよ・・・」

「・・・みあ」

名前を呼ばれてドキっとした。

「そこにいるんだろ?出て来いよ」

バレてたのかな・・・?
仕方ないなぁ・・・出て行くしかないか・・・。

「えへへ・・・バレてたの?別に立ち聞きするつもりでも、後をつけたわけでもないんだけどさ・・・」
「バレバレ。魔力が感じられた・・・というより気配があった」
「隼人にはまだまだ追いつけないか・・・」
「みあ…!」
「あみ…ごめん」

ふたりのもとへ歩いていく。

「これでいい?みあ」
「どーゆーことよ・・・」

ちょっとふくれっ面で言ってみた。
わざわざあみに、翌日に言いに行くなんて・・・なんでそんなに急に行動するのよ・・・。
しかも、これじゃあ、あたしに逃げ場がない。

「これで俺とつきあってくれる?」
「〜・・・あみが・・・あみがいいっていったらねっ」
「みあ・・・みあも隼人ちゃんのこと好きだったの・・・?」
「・・・うん・・・。ごめん・・・あたし、あみが隼人のこと好きって知ってたんだ・・・。 隼人があみこと好きだって感づいてたから・・・あきらめようと思ってたの」
「はは・・・気づかなかったよ・・・こんなに近くにいたのに・・・みあのこと、何でも知ってる・・・つもりだったのに・・・」
「あみ・・・」
「いいよ・・・つきあいなよ。好きなんでしょ?お互いのこと。それなら止めないよ・・・わたし・・・」
「あみ・・・」
「おめでと・・・隼人ちゃん、みあのこと大事にしてよ?絶対絶対、泣かせないでよ?」
「ああ」
「わたしは、隼人ちゃんより、もっとずーーっといい人みつけるんだっ。だから・・・ね。気にしないで」

そう言って微笑んだあみはすごく・・・キレイだった。
もったいない・・・こんなに素敵な人をやめてあたしを選ぶなんて、なんてもったいないの・・・。
あたしが男だったら、迷わずあみを好きになる。

「あみ・・・ありがと・・・」
「じゃ、ね」

そう言うとあみはくるっと方向転換すると走って行ってしまった。

「みあ・・・」
「なにもわざわざ・・・言わなくてもいいんじゃないの?」
「すきっりしなくってさ・・・それに、みあが好きっていうのは事実だから」
「・・・・・・」

もーう、そんなにハッキリ言われると恥ずかしいよっ。
顔がアツイ・・・。

「みあ?みーあっ。怒ってんの?」
「怒って・・・ないけど・・・」
「なんだよー」
「は、恥ずかしいのっ。そんなにストレートに言われるの・・・」
「ふうん・・・」

ぎゅうっと抱きしめられる。

「こうしても怒んない?」
「・・・・・・怒らない・・・けど」
「キス・・・してもいい?」
「…無理矢理はやだ…」
「その先は?」
「もうっ!あたし今何歳だと思ってるのよッ」

バッと隼人を見上げた。
絶対あたしのことからかってるんだっ!

「15歳」
「そーよっ!15よっ。まだ15歳なのよ?」
「それがなにか?」
「なにかってっ。まったく・・・」
「くすくす。みあってからかいがいがあるっていうか・・・おもしれー」
「もーう・・・」
「でも、俺も男だかんなー、いつまで理性を保てるか♪」
「楽しそうに言わないでよッ・・・んっ」

いきなり、キスが降ってきた。

「わかったから」

隼人が、にんまり、笑った。

「もー・・・無理矢理はヤダっていったのに・・・」
「いーじゃん。ね?」
「隼人ってこんな軽いヤツだっけ・・・?」
「あはは・・・」

視線がふっと合って。
ゆっくりとお互いの距離が縮まって、そっとキスを交わす。
キスくらいなら許される年齢だよね・・・?




「さてと。今日は俺が送ってくよ」

ぽんっと箒を隼人が取り出した。

「隼人、飛べるの?」
「一応な。授業で習ったし?この間は持ってなかっただけ」
「へぇー」
「お、信用してないな?ほら、乗れよ」
「う、うん」

箒に腰掛ける。 トンっと、隼人が地面を蹴ると、ふらりふらりと箒は舞い上がった。

「わ・・・」
「飛べるだろ?」
「うん・・・でも・・・遅いね・・・」
「それは言うなって!」
「うちに何時につくかなぁ」
「あはは。2時間あれば着くと思うけど?」
「日が暮れる・・・」

とろとろと、箒が飛んでいく。
へたしたら走った方が速いよー・・・。

「あーもーっ、遅い!!あたしが乗る!」
「え?」
「一回下に降りて!」
「なんだよ、それー、人が頑張ってやってんのによー」
「練習ならともかく、これじゃあ、夕飯までにうちに帰れないじゃないか!あたしが送ってくからいい!じゃないと自分の箒で帰るよ??」
「わーった、わーった」

そろりと公園に降り立つ。
ぽんっ。自分の箒を取り出す。 それと同時に隼人が箒をしまった。

「はい、乗って」
「カッコ悪りー・・・」

ふわりと宙に浮いて、さっきの2倍ほどの速さで飛んでいく。
あたしにしてみれば、これでも遅いほうなんだけどね・・・。

「やーっぱ天才にはかなわねーなぁ・・・」
「天才?そんなんじゃないし」
「魔力の強さだけは天才以上だぜ、まったく・・・。箒をこんなに簡単に乗りこなすなんてな・・・」
「ぐちぐちいわなーいっ。さっきまでの隼人はどうしたのさぁ」
「はいはい」

そのまま、すいっとひとっ飛びで隼人の家に降り立った。

「じゃ、ね」
「ああ。またな」

うちに帰ろうと箒にまた腰掛ける。

「みあ」
「ん?」

ちゅっと軽く額にキスされた。

「サンキュ」
「・・・またね」

ふわりと宙に舞い戻る。


好きな人がいるっていうのは、とても強いこと。 とても幸せなこと。
両思いになるっていうことは、ある意味奇跡。
気持ちだけは魔法を使っても操作できないから。
魔法で叶えられない幸せ。
それは、好きな人に側にいてもらうこと。
「幸せの魔法」を使っても、きっと無理だと思う。
でも、はやく、あたしも「幸せの魔法」を使えるようになりたい。
高等魔法をはやく取得して、ハイレベルも取得して、幸せの魔法を習ってみたい。
そのためには勉強しなくちゃ。

幸せになりたい。
それは、誰もが思うこと。

幸せにしたい。
そう思えることはすごいこと。
幸せにしたい人がいるっていう奇跡。

守りたい。
そう思うことと同じだよね。



「みあ様ーっ」

部屋に帰ると、いつもの明るい声がした。
わたしの一番大好きなパートナーの声が。

「シア」
「おっかりなさいませー」

くるくると、回りながらシアが言う。

「ただいま」
「なんだか嬉しそうなお顔ですね」

にっこり、シアも嬉しそう。

「うん。あ、ねえ、シア。シアの幸せって何?」
「え?シアの幸せですか?」

きょとんとした表情でシアが言った。

「うん。あたしで叶えられることなら叶えたいなって思って」
「シアの幸せはー・・・」
「幸せは?」

「みあ様が幸せでいてくれることです」

「え?あたし・・・?」
「みあ様が幸せなら、シアも幸せです。シアはみあ様の守護精霊ですから」
「シア・・・ありがと」

だれかの幸せを幸せだと言える。
そんな心の広い人・・・。
自分の幸せより先に相手の幸せを願えるなんてすごいね・・・。

「すきだよ」

その一言こそが、
本当の、

「幸せの魔法」なのかもしれないね――――。


誰もが、誰かを幸せにできる、「幸せの魔法」なんだね―――。



**The End**


2008/02/21/ Up Date