「あ、そうだ。あたし、初詣は美沙お姉ちゃんたちと行っていい?」

クリスマスの夜は家族三人で、チキンとケーキとプレゼント。
ただ、それだけのクリスマス。
プレゼントはだいたい決まったように図書カードなんだけどね。
これがあたしは一番嬉しいってわかられちゃってる。
ケーキと紅茶のデザートを食べながら、さっき言われた初詣のことを思い出して言ってみた。

「美沙子ちゃんたち?」
「う、うん」
「・・・たち、って?」
「え?あ、美沙お姉ちゃんの彼氏さんとか」
「ふうん・・・」

そう、ちょっと含み笑いをしながらお母さんが笑うと

「あと、まりんの彼、でしょ」
「なっ・・・!」
「隠さない隠さない。さっき送ってくれた子でしょ?窓から見えちゃったんだからー」
「うっ・・・」

そう。
あたしはお母さんたちに彼がいるって話してない。
そんな面と向かって彼氏が出来ました!とか宣言するようなものでもないし、 紹介するときもなかったし、二人とも体育祭には来られなかったから、あの事件は知らない。
突然核心を突かれて、どぎまぎしちゃう。
だって、だから、わざわざ「美沙お姉ちゃん」の名前を出してるんだもん・・・!

「でしょう?」
「・・・・・・うん・・・」
「あの子は美沙子ちゃんとも関係があるのか?」
「お父さん・・・うん。えっと・・・空井聖夜君っていうんだけど・・・その、お兄さんが美沙お姉ちゃんの彼氏さんなの」
「せいや、君。どういう字書くの?」
「聖なる夜」
「あら、じゃあ、誕生日は今日か明日?」
「今日。だから、その・・・出かけてた、の」

やだ、もう、なんでこんな話になってるの・・・?!
親と恋バナとか、恥ずかしい・・・!
でも、もう、誤魔化せないし・・・・・・ううう・・・。
銀河さんと美沙お姉ちゃんは聖夜君のご両親にもオープンにしてるみたいだから、 あたしと聖夜君がこそこそしてたら、それこそ怪しまれるもんね・・・。
それに、美沙お姉ちゃんからぽろっと伝わるのはちょっと・・・気まずいし。

「美沙子ちゃんの彼の弟、か・・・」
「べ、別に美沙お姉ちゃんがどうとかは関係なくてね?その、たまたま、なの」
「たまたま、彼のお兄さんの彼女が従姉妹だった、と」
「なんだか複雑なことになってるのねえ」

えええ、全然複雑なんかじゃないよ・・・!
ほんとに、本当のことだもの・・・!
聖夜君とあたしが知り合って、銀河さんと美沙お姉ちゃんが恋人同士で、銀河さんの弟が聖夜君だったっていうだけだもん・・・!

「でも、まあ、それなら初詣も安心ね。行ってらっしゃい」
「いいの?」
「美沙子ちゃんもいるし、その彼氏さんもいるんでしょ」
「でも、お母さんたちが二人になっちゃうよ」
「それはそれでいいじゃない。まりんが生まれる前に戻るだけよ」
「母さん、その言い方はないんじゃないか」
「あら、私とデートじゃ嫌なのかしら?娘がいなきゃ行かないの?」
「そうは言ってないだろう。・・・・・・まあ、そんな年頃か。まりん、危ないことはするんじゃないぞ」
「ありがとうっ」

よかった・・・!
でも、やっぱり、ふたりきりだったら行かせてくれなかったんだろうな・・・。
美沙お姉ちゃんと銀河さんに感謝しなきゃ。
お父さんとお母さんは、大学時代に知り合って結婚したってきいてる。
ふたりともまだまだ感覚が若くて、親なんだけど、時々すごーく年の離れたお兄さんやお姉さんみたいな、そんな感じもしちゃう。
服装も若々しいし、見た目も年相応とはいえない。
そんな二人があたしは大好きだけど・・・こう面と向かって「デート」とか言われると、なんだか複雑な気分になるな・・・。
今まではこんなこと考えたこともなかったけど、二人にもあたしたちみたいに、恋人同士の期間があったんだよね・・・。

「じゃ、今年は着物きせてあげる」
「えっ、別にいいよ。そんな」
「いいのいいの。私の着物、やっと着られるような身長になったんだから、着て頂戴」
「お母さんの?」
「そう。さすがに私はもう着れないから、娘が着てくれれば服も喜ぶってものよ」
「おまえの着物って、どれだ?」
「お父さん覚えてるかしらねー?紺色で椿の柄が入ってるヤツよ」
「・・・・・・ああ、あれ」
「お正月にはちょっと色が落ち着きすぎてるかもしれないけど、まりんは青系の方が似合うし、いいでしょ」
「う、うん・・・わかった。じゃあ、行く前に着付けてね」
「よし。さ、お正月の話はおいておいて、今夜はクリスマスよ!」
「もう終わったも同然だろう」
「まあ、今日はイヴ。明日が本番!」
「はいはい」

そう言って笑いあったお父さんとお母さんが、突然すごく若いカップルに見えた。
普段通りのハズなのに、ね。
でも、あたしがいないことで、二人がそうやって楽しむ時間ができるなら、それもいいなって思った。
だって、お父さんはお母さんが好きで、お母さんはお父さんが好きなんだもの。
それは、あたしが聖夜君を好きなのと同じ事、なんだよね。
あたしがいないことで、二人の時間が少しだけ巻き戻る。
そんなような気がしたの。