ガタンゴトン・・・。
電車に揺られて、知らない町へと進んでいく。
「いいわねーっ。なんか新鮮だわ、4人で出かけるなんて」
「ほんとだな」
銀河さんと美沙お姉ちゃんが言う。
ふたりとも首から一眼レフのカメラを提げている。
それでわかった。
今回のひまわり畑は、部活動のひとつなんだろうなって。
聖夜君はきっと…絵のためよね。
だって、ちょっと大きな鞄を持ってる。
きっとスケッチブックとかが入ってるんでしょう?
あたしだけ手ぶら。
・・・・・・ちょっと寂しい、なんて思っちゃうな。
「やー、ごめんね、まりんちゃん、連れ出して」
「いえ、いいんです。遠出も久しぶりだし」
「いいモデルがいてよかった」
「へ?」
「あれ?ダメかな。この間の紅茶代ってことで数枚撮らせてよっ」
にっこり笑って銀河さんが言った。
「あー、ずるーい!ひまわり畑の夏少女なんておいしい構図っ!あたしにも撮らせてよ、まりんっ」
「・・・そ、そうなるの・・・?」
「おれは知らないからな」
「せ、聖夜君・・・」
「きーまりっ。うん、まりんを連れてきてよかったわ」
「僕のモデルを横取りしたなー美沙子」
「取ってないわよー、共有共有っ」
「あたしはモノじゃないんだけどなぁ・・・」
そんな会話をしながら、ゴトゴト電車に揺られていく。
もうあたしたちの街からずいぶん遠くなった。
景色が違うもの。
海が見えなくなって、緑が多くなってきた気がする。
「さ、降りるわよ、まりん」
「あ、うんっ」
美沙お姉ちゃんに促されるまま、電車を降りる。
バスにのって、20分ちょっと。
どうやら、観光名所にもなっているであろうひまわり畑にたどり着いた。
でも、人はちらほらしかいない。
「おおー、日曜日なのに人が少ないなぁ」
「お盆前だから、みんな控えてるんでしょ」
「なるほど。こっちとしては好都合だ」
バス停から少し歩くと、一面黄色の世界が現れた。
「わあっ・・・すごい…!」
「本当だ・・・これこそひまわり畑だな・・・」
「だろ?写真で見たときから来たかったんだー」
「わお、すっごーい!」
嬉しくなって、思わず早足になる。
だって、自分の背丈ほどもあるひまわりが一面に広がっているんだもん!
大きな大きな頭のひまわり。
あたしたちの街では絶対に見れないもの!
写真を撮りに来たくなる気持ちが分かるな・・・っ。
「まりーん!あんまり遠く行かないでよーっ」
「はーい!」
カメラの準備をし始めた美沙お姉ちゃんが言った。
いいな、あとで一枚もらおう。
きっと素敵な写真を撮ってくれるよね、ふたりなら。
「まりんちゃん!ちょっと奥まで行こう。フォトスポットがあるんだってさ!」
「はいっ」
後ろで、手を振りながら言った銀河さんに返事をして、ぱっと身を翻す。
ひまわりとひまわりの間に作られた、人一人分の幅しかない道を通っていく。
ひまわりのトンネルを抜けているみたいな感覚。
銀河さんくらい背があったら、こんな気分は味わえないよね。
銀河さんは背が高いから。
少し進むと開けた場所があって、ベンチが置いてあった。
どうやらここがフォトスポットみたい。
少し坂になってるなって思ってたけど、ここから見ると丘みたいになっていることがわかる。
「うーん、最高。じゃここで撮影しよう」
「そうね。絵にもぴったりなんじゃない?聖夜君」
「あ、はい」
ベンチを指して美沙お姉ちゃんが言った。
写真は一秒でシャッターが切れるけど、絵はそうもいかないもんね。
パラソルで日陰の作られたベンチはほんの少し、奥に作られていた
「写真っていいよなー」
「聖夜君?」
「だって、手軽じゃん。それに、一瞬をとどめておけるなんて、写真にしか出来ない」
「お、わかってるじゃん、聖夜」
「でも、絵には絵にしか出来ない事があると思うよ?」
「そうなんだけどさ」
そう言うと、くるりとベンチに向かって歩き出した。
なんだかんだ言っても、聖夜君は描くんだね。
トンと鞄を置いて、ベンチに座る。
あたしも隣に座った。
「ねえ、あとで見せてくれる?」
「見せられる状態だったらな」
「・・・・・・うん」
そうやって言うけど、見せてくれるんだよね。
わかってる。
聖夜君はそういう人なんだよね。
「まりん!あんたはこっちっ」
美沙お姉ちゃんが大げさに手を振って言った。
銀河さんまでがひょこひょこと手招きしている。
ああ、逃れられそうもない・・・。
「じゃあ、あたし行ってくるね。鞄、置いてっていいかな?」
「いいよ」
「ありがと。じゃあ、またね」
「おう」
がさがさとスケッチブックと色鉛筆を取り出しながら、聖夜君が言った。
色鉛筆・・・なんだ。
そうだよね。
水彩や油彩は持ち歩けないもんね。
「まりん!」
「はぁーい!今行きますっ」
それから、さんざんふたりのモデルをやらされた。
・・・と言っても、普通にしてくれてればいい、というだけで雑誌のモデルさんなんかとは勝手が違うんだけどね。
“僕たちはカメラマンはカメラマンでも、雑誌やなんかみたいなのじゃないんだよ”
そう銀河さんが言った。
ただ、この場の自然さが欲しいと。
でも、こう…レンズふたつ向けられてるだけで緊張して仕方がなかった・・・。
時には美沙お姉ちゃんとふたりで撮ってもらったりもしたけど…。
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