「ふわぁ・・・」
思わずあくびが出ちゃう早朝朝礼。
そう、これは“終業式”ってやつ。
真夏の体育館。
総勢六百人以上の全校生徒と先生。
じりじり照りつける太陽は、朝だって暑いことに変わりはない。
おまけにこの蒸し暑さ!密閉空間!
窓は開いてたって、涼しさのカケラもないんだから。
校庭でやったら涼しいってわけじゃないけど・・・これはこれで地獄よ。
「おっはよ!まりん。あっついねーっ」
「おはよー綾ちゃん。もう嫌になってきちゃったよぉ」
「ほーんと。でもでも!これが終われば夏休みっ!だよ」
「うんっ」
「それにしてもあっつい。まりん、その髪ウザくないの?」
「だから、今日はちゃんと結んできたじゃない。朝礼じゃ綾ちゃんやってくれないもん」
「長いだけで暑そう〜、あたしには耐えられない!」
数日前に髪を切った綾ちゃんが、ガシガシと頭をかいた。
確かに、長いと暑いし重いしで嫌になることもあるけど・・・どうしてかな、あたしは別にいいかなって思えちゃうの。
ここまで伸ばすと、逆に切るのがもったいなくも感じるしね。
「ほら、並ぼう」
「そーね。1組の救いは窓際ってところだけね・・・3組あたりがかわいそー」
「あはは・・・ちょっとの辛抱だよ」
「じゃ、またあとでね、まりん」
綾ちゃんがすごすごと自分の場所へと移動した。
背の高い綾ちゃんは後ろの方、あたしは真ん中あたり。
人が密集してる地帯・・・。
「水海」
ぽんっと肩を叩かれて、名前を呼ばれた。
ぱっと振り向くと、そこには聖夜君が!
「お、おはよう、聖夜君」
「はよ」
「どうしたの?わざわざ1組のところに・・・」
「放課後、空いてる?」
「え?あ、うん。空いてるけど・・・」
「完成したから、約束通り、見せるよ。例の場所でいいか?」
「ほんとっ?!わあ、ありがと!絶対行く!」
「じゃ、それだけだから」
そう、さらっと言い放つと、聖夜君は人混みを抜けて1組とは真逆の方向へと向かっていった。
・・・わざわざ伝えに来てくれたんだ・・・!
完成したら見せてくれるっていう約束の絵。
ちゃんと、覚えててくれたんだね。
なんだか、とたんに朝礼もだるくなくなってきた。
だって、放課後に見せてもらえるって思うと、わくわくする!
ふたりでいつもいた、放課後の部活場所。
同じ場所を、聖夜君はどうやって見ていたんだろう?
どうやって描くんだろう?
あたしは全く絵が描けないから、あたしがあの場所を描くことは出来ない。
本当に不思議で仕方がないの。
どうしたら、同じ真っ白の紙があんなに素敵な世界になるのか・・・。
ジージーとうるさく鳴く蝉の声さえ、なんだか夏の風物詩みたいで心地よくなってきた。
いつもはあんなに暑苦しいと思っていたのにね。
そして、真夏のサウナのような体育館での朝礼を終えた後、
学活で大量の宿題プリントを配られ、夏休みの注意事項なんてものを聞かされ、成績表をもらった。
いたって普通の成績表。
唯一良いのは国語だけで、数学と理科なんて平均点ギリギリ。
先生からのコメント欄には、またもや「たくさんの本を読んでいるようですね」みたいなことを書かれてる。
否定はしないわ・・・むしろ、認めてくれてありがとうと言いたいくらいだもん。
最後のチャイムが鳴り響いて、1学期は終了!
綾ちゃんは、また部活の相談で顧問の先生に呼び出されて、そそくさと行ってしまった。
さて、あたしも聖夜君との約束に向かおうかな・・・。
そう思って、夏休みの読書用として借りた本数冊を、ちょっと重いなぁと思いながら教室を後にして、久しぶりにあの場所へと向かった。
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