「あうー・・・あたしってばほんと、どれやってもフツー・・・」
「もう、綾ちゃんってば・・・普通に出来ればいいじゃん」
「そうだけど!なんかこう!悪くもないのに良くもないって、平凡だなぁと・・・」
「あたしなんて文系しか出来ないんだから、それに比べたら羨ましいよ」
試験も終わり、今は試験返却期間。
授業がまた特別に組まれて、テスト返却と解説が行われるの。
間違えたところを間違えたままにしないで、理解できるようにってゆーのが目的みたい。
でも、間違えた箇所をしげしげと見つめたり、終わった試験問題をまた見つめるのは正直、好きじゃない・・・。
でもでも、先生たちの言い分はわかる。
間違えたところをそのままにしておいたら、理解もなにもできないもんね…。
「まりん!」
「う、わっ」
突如名前を呼ばれて、ひょこっと姿を現した人物に驚いた。
「雅!」
「よっ、久しぶりっ」
「な、なんでいるの?」
「なんでって、同じガッコーだろー?」
「・・・5組の雅が1組のあたしに何の用?」
「へへー。1組って英語の授業終わった?」
「え、うん」
「辞書、貸してよ。まりんしか思いあたらなくって」
「・・・別にいいけど・・・ハイ」
「サンキュー!助かった!」
にっと満面の笑みで雅が言った。
雅は小学校の時ずっと同じクラスだった男の子。
仲の良いクラスだったから、みんな名前で呼び合ってた。
いわゆる、幼なじみ。
中学に入ってからは会うこともあまりなかったんだけど・・・。
「・・・・・・まだ何か?」
「へへー。なあ、まりん、俺とつきあわない?」
「・・・・・・え?」
「あ、からかってるわけじゃないかんな。俺、まりんのこと好きだから」
雅のその一言に、クラス中がバッとあたしたちの方を見た。
な、な、何を言ってるの・・・!
「あ、やべ。チャイムなるじゃん。じゃ、そゆことで」
「ちょ、雅!」
「考えといて。本気だから」
「・・・・・・」
「じゃ、コレ、あとで返すからな!」
そう言って、雅は周りの雰囲気なんか気にもせずに教室を出て行った。
「ちょっとまりん!あれ何なのよ!」
「な、何なのって、あたしが聞きたいよ、綾ちゃん・・・」
「このモテモテ娘がっ」
「べ、つに・・・そんなこと・・・」
「高村君ねー、意外だわー」
「え?雅のこと知ってるの?」
「何言ってるのよ。5組の空井・高村と言えば有名人よ」
「聖夜君・・・」
「空井君は美術で有名でしょ、高村君はサッカー部のエースじゃない。まりんはウワサとかきょーみないもんねー」
「う、ん・・・」
聖夜君と雅・・・。
正反対なふたり。
有名だったなんて知らなかった・・・
「で、どーするの?」
「何が?」
「コ・ク・ハ・ク」
「・・・考えてみる・・・けど」
「あたしは空井君の方がお似合いだと思うけど」
「せ、聖夜君とはホントに何でもないんだって!」
「はいはい。さーて、残りあと2教科!頑張りますかっ」
ぐーっとのびをして綾ちゃんが自分の席へと向かった。
・・・好き?
あたしは雅のことそんな風に見たことがない・・・。
友達・・・だよ?
いつだって、これからだって、そう思ってたんだもの。
好きか嫌いかと聞かれたら、嫌いじゃない。
でも、好きかと問われたら・・・困る。
嫌いじゃない。
でも、好きと言えるほどでもない。
・・・あたしの中では、雅は・・・そういう存在・・・。
「遅いなー綾ちゃん・・・」
一緒に帰る約束をした綾ちゃん。
だけど、部活の先生に呼ばれてちょっと行ってくるというので、あたしは玄関を出たところで待つことにした。
それがかれこれ15分前。
ちょっと・・・じゃないじゃない。
「水海」
「・・・聖夜君。今帰り?」
「ああ。誰か待ってるのか?」
「うん。綾ちゃんをね」
「あ!まりんじゃん!!」
聖夜君の背後からした声。
それは紛れもなく、雅のモノだった。
「雅・・・」
「何?高村と知り合い?」
「・・・小学校の時のクラスメイトなの」
「へぇ…」
「なあなあ、考えてくれた?」
「・・・うん・・・」
「えーと・・・おれ、邪魔か?」
「別にいいよ、空井」
「・・・?」
「・・・ごめん、雅。あたし、雅のことそーゆー風に見たことないの・・・。きっと、これからも、そうだから・・・」
「そっか。そんな気してたんだ。サンキュ」
「えっ」
「じゃあ、またな、まりん。あ!英語の辞書、机の上に返しといたから」
「う、うん。ありがと」
雅はにこやかにそう言うと、あたしと聖夜君の間をすり抜けて行った。
・・・嘘は一つも言ってない。
でも、なぜか、ごめんなさいと言いたくなる。
「・・・仲、いいんだな」
「え?」
「名前で呼んでる」
「それは小学生の時からだから・・・」
「・・・・・・・・・。あ、そういえば、この間、カフェ来たんだって?」
「え?あ、うん。そっか、銀河さん・・・」
「ああ。写真撮ったって自慢してきた」
「・・・なんかもやもやしてて、銀河さんに話聞いてもらっちゃったの。お茶とケーキ、ごちそうしてくれて。そのお礼だよ」
「写真のモデル・・・か・・・兄さんらしいや」
試験前。
試験勉強と、夢の話がごちゃごちゃになって、もやもやしてて、気分転換にと鳥籠カフェに行った。
お客さんは誰もいなくて、あたし一人。
銀河さんだけがお店番で、せっかくだから、と、ふたりでお茶をした。
ケーキも余っちゃうともったいないからって、ごちそうしてくれて。
何でもない話をして、少し勉強の話をして、カメラの話なんかも聞いた。
銀河さんは気さくで、人当たりが良くて、聖夜君とは違うタイプの人。
美沙お姉ちゃんの彼氏さんだからかな。
なんだか、とっても話しやすかったの。
「銀河さんの撮った写真も見せてもらったの。とっても綺麗だった。それに、良いこと教えてもらったの」
「良いこと?」
「んー・・・良いことっていうのかな・・・?カメラのこと」
「・・・・・・」
「写真って“一瞬を永遠に残せる”んだよね。考えても見なかったの、そんなこと。とっても素敵だなって思ったの」
「・・・・・・」
「聖夜君も銀河さんも、なんかいいね」
「は?」
ふたりとも、形は違うけど、芸術をやってる。
写真と絵って、通じるところがあると思うんだ。
写真は真実を映し出して、絵は空想も映し出す。
どっちもいいなって思うの。
「ごっめーん、まりん!お待たせっ・・・あら、空井君」
「じゃ、おれはここで。・・・またな」
「あ、うん・・・」
聖夜君はそれだけ言うと、ささっとあたしの前からいなくなった。
あたし、何か・・・気に障るようなこと言ったかな・・・?
なんだか・・・ちょっと・・・機嫌悪かった・・・気が・・・。
「・・・あたし、お邪魔虫だった?」
「ううん。帰ろ、綾ちゃん」
「うん・・・」
綾ちゃんと肩を並べて門をくぐる。
「で、どーするの?」
「?何が?」
「もう、高村君のこと!」
「ああ、もう断ったよ」
「へ?」
「さっき会ったの。下駄箱のところで」
「・・・あれは空井君じゃない」
「綾ちゃんが来る前には雅は行っちゃったから」
「・・・そう。なーんだ、つまんなーい」
「楽しんでないでよ・・・」
「あたし、告白なんてされたことないし!なんかちょっと羨ましいっ」
「・・・好きな相手からなら・・・嬉しいんだろうけどね」
「意味深発言ね」
「一般論だと思うけど」
「・・・それもそうだ!」
綾ちゃんがころころと笑う。
そう、きっと、好きな相手から好きと言われたら、嬉しい。
嫌いな人から言われたら…答えは分かりきってる。
でも、どちらでもなかったら?
戸惑うよ・・・。
それでも、やっぱりね、なんとなくわかったんだ。
友達か、それ以上に思ってるか、どっちかなんだって。
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