「おっはよ、まりん」
「あ、おはよー綾ちゃん」
「今日から試験ねー。嫌んなっちゃう」
「本当。あたし、今日の数学自信ない・・・」
「あははっ。あたしは社会の方が危ないなー。過去のこと覚えてなんになるのかサッパリ理解できないわ」
「うん・・・それはちょっとあるかも」

今日から1学期の期末試験。
英語・数学・国語・理科・社会の五教科に加えて、美術・音楽・家庭科の合計8教科。
3教科ずつ2日間と、2教科1日の合計3日間が試験期間になる。
一週間前からは部活動禁止期間で、聖夜君にも会わなくなった。
とにかく、学生の本分である勉強にいそしむというわけ。
国語と英語はいいんだけど、あたしは数学と理科がダメな典型的な文系・・・。
数学なんて本当に自信ない・・・。

「あーもー、早く終わればいいのにっ」
「綾ちゃん・・・まだ試験も始まってないよ」
「そうなんだけどさっ」

そう言いながら、綾ちゃんはあたしの髪をブラッシングする。
邪魔にならないように、ちょっと低めのツインテールにしよう、と言って楽しそうに。

「そいえばまりん」
「なーにー?」

1時間目の試験科目である社会の教科書を広げる。
気休めにしかならないけど、気休めになるならやるわよね・・・。

「最近楽しそうね」
「・・・・・・はい?あたし、そんなに試験を楽しんでるように見える?」
「いや、それは別だって…。なんか良いことあったの?」
「え?いいこと?」

あたし、そんなに楽しそう・・・かな。
確かに、良いことはあったよ?
聖夜君に絵もらっちゃったり、素敵な夢を見たり・・・。
お話を書き始めたのも、いいこと、なのかな。

「あ、わかった!新しい本見つけたんでしょう?」
「んー・・・ナイショ」
「えーっ、ナイショ!?めっずらしー・・・まりんがナイショなんて」
「うそうそ。特にそんなに思い当たらないんだって」
「ふーん・・・。じゃあ、さ」
「まだ何かあるのぉ?」
「ふふん。空井君とはどーなのよ」
「えっ」

聖夜君がなんでそこに出てくるの?
あたし、放課後聖夜君と同じ場所で本読んでるなんて、一言も言ってないんだけど・・・!

「ほら、熱があったときに、お姫様抱っことかしてくれちゃう仲よしさんなんでしょー?」
「べ、別に何もないよっ。あの時はなりゆきで・・・」
「“なりゆき”・・・ねえ・・・」
「な、によ」
「ううん、そゆことにしときましょうか」
「綾ちゃん・・・だからぁ」
「ハイハイ、これでOK!チャイムなるから席に戻るね」
「あっ、逃げたっ」
「いーからいーから!1時間目に備えて勉強よっ」
「もーう・・・」

きゃらきゃらと笑いながら、綾ちゃんは自分のポーチを持って席へと戻ってしまった。
…お姫様抱っこしてもらう仲なんかじゃない。
あれは、あたしが意地張って保健室に行こうとしなかったからよ・・・。
それに、仲よしってほど…あたし、聖夜君のこと知らないもの。
名前と、誕生日と、クラスと、部活。
それしか・・・知らない・・・。

・・・・・・。
なんだろう。

今、ふいに、聖夜君のこともっと知りたいって思った・・・。
何も知らないってことが、悔しくなった。
あんなに一緒に、いる時間があるのに・・・。

「〜〜〜〜〜〜〜」

と、とにかく、今は集中して試験にのぞもうっ。