それから、何度か聖夜君と木陰で会った。
ううん、会ったというよりは、居合わせたが正しいと思う。
別に、嫌じゃないから、場所を変えたりはしなかった。
それに・・・絵を描いてる聖夜君はなんだか別人みたいで、興味があったの。
銀河さんが言ってたみたいに、ちょっと不器用なところもあるみたいだけど、手先だけはとても器用。
あたしは、絵を描くなんて苦手だから、作業そのものが不思議にも思えた。
鉛筆の次はペンを持ってきて、とうとう水彩絵の具が登場していた。
あたしも、本が3冊目になる。
何の本を読んでるのか、なんて情報や感想を聞かれたりした。
この空間は嫌いじゃない。
むしろ好き。
聖夜君は、あたしが好きな空気を壊さないでいてくれるから、安心できる。
時には、他愛のない話をしたりもした。
英語の小テストはやったか、音楽の授業で何を歌ってるか、理科の実験はどうだったか・・・。
クラスによって担当の先生が違う場合もあるから、他のクラスの情報はおもしろいみたい。
英語の先生が、あたしのクラスとは違うから進みも違うし、音楽の授業もクラスによって進みが違うみたいだった。
今まで、男の子と二人で話す事なんてなかった。
だから、ここ数週間が違う感じがした。
最初に会った時みたいな会話じゃない。
でも、わかったの。
聖夜君があんなにちょこちょことしか話さないのは、絵を描いてるからなんだって。
絵を描いてるときの聖夜君は、話しかけるのをうるさいとは言わないけど、返事は一言二言。
でも、筆を動かしてない時は、ちゃんと話してくれるんだ。

日に日に上がってくる気温は、日陰の気温までもあげてきたけど、 そんなことお構いなしに、懲りずにあの場所に向かってしまうあたしがいる。
何でだろう・・・。
きっと、あの空間が好きだから。