しとしとしと・・・。

静かに水の雫が空から降ってくる日に葬儀が行われた。
長い長い煙突から流れる、白っぽい『あなた』をただただ眺めた。

ねぇ、あなたは幸せだった・・・?
ちゃんと、この世界を生き抜けた・・・?

心の中で問い掛けた。
永遠に返事がない質問を・・・。

あなたは私の親友だった。

私はあなたが好きだった。
誰よりも、何よりも大好きだった。
二人で交わした言葉。
二人で交わした秘密の約束。
二人でよく行った喫茶店。
毎 日通った並木道。
ノートの端で会話したり、小さなメモに綴った他愛もない手紙 ・・・。

二人で奏でたメロディーはもう、聞こえない・・・。

彼女は親友で、私のパートナーだった。

「ゲコゲコッ」

雨水に誘われたのか、小さなカエルが私の足元近くで鳴いた。
雨水を身体いっぱ いに浴びている。
自由な世界だね、カエルくん・・・。

「ほのか・・・」

彼女の名前を呟く。
その響きが愛おしくて、あまりにも遠い距離に、涙がこぼれて雫と同化した。

涙を流したのは何日ぶりだろう・・・。
彼女の死を知ったとき、涙はこぼれなかった。
代わりに、心がこぼれた。
彼女の白く血の気がない顔を見た瞬間。
涙があふれた。
まるで、ダムが決壊した かのように、涙があふれた。
泣いて泣いて、泣き続けた。
それ以来、お通夜でもお葬式会場でも涙はこぼさなかった。
代わりに、心が削れ ていった。


全ての葬儀が終わって、私は抜け殻になった。
彼女の笑顔が、声が、思い出が私を縛りつけた。
もう、学校を何日も休んでいる。
学校に行くのはつらすぎる。
彼女との思い出が つまりすぎているから・・・。
部屋から出られなかった。
恐かった。
私が私でなくなってしまいそうで・・・何を言うか、何をするかわからな かった。
今も、私は人形のようにベッドの上に座っているだけ。
何も出来なかった・・・。

彼女の奏でるピアノの音が耳に深く焼き付いている。
ピアノが上手だった。
彼女 の伴奏に合わせて歌うのが好きだった。
かわいらしい声に仕種。容姿も可愛かった。
『ほのか』という名前がぴったりだ った。

どうして私をおいて逝ってしまったの?
ひとりは寂しいって言ったのはほのかだよ・・・?

大切な人を失うのはとてもつらい。すごく・・・。

「わたし、夏奈のことだーい好き!ずーっとずーっと一緒にいようねっ」

ほのかの笑顔と声が、私の前で、幻とは思えないほどはっきりとリフレインした 。