ふたりで帰るときはいつも少し遠回り。
綺麗な小川と石畳の小道。
さわさわと葉がこすれる並木道。
少し大きな公園にある池や、小さな丘。
わたしがずっとこの街に住んでいるのに知らなかったことを、
辰星はたくさん教えてくれた。
だから、ふたりで帰るときは少し遠回りして、
自然を感じて歩く。
それに、遠回りしたほうが長く一緒にいられるでしょう?
「ねえ?まだわたしが人魚じゃないって疑ってる?」
「んー、3割くらい」
「あ、1割増えたっ」
「くすっ。ま、目で見てないものを信じる方が難しいし・・・。でも信じてないわけじゃないよ?」
「・・・じゃ、見たら信じてくれるんだ?」
「そりゃ、自分の目、疑わない限りは」
「ふうん・・・。じゃあさ、夏休みは海に行こう」
「海?どして?」
「見せてあげる。証拠」
「・・・いいんだ?」
「ここまで言っておきながら・・・疑われる方がイヤだもの」
「でもどうして海?」
「海ならプールより誤魔化せるでしょう?」
「・・・そうか・・・」
「ね。きまりっ。あ、まりあも誘って行こう!あー、ちょっと楽しみっ」
「ピクニック気分ってやつー?ま、いっか。海なんてなかなか行く機会ないし」
3割も疑われたままなんてイヤじゃない?
信じてもらえる部分があるのなら、100%信じてもらいたいって思うのは欲張りかな?
海なら、変身して、すぐに戻れば見てる人なんていないはず。
プールはあの透明な水と低い水深の特徴があるから、絶対さわぎになっちゃうもの。
それにね、海って開放的な気分になれて好きなの。
視界いっぱいの海と空が、すごく閉鎖的なこの日常から解き放ってくれるみたい。
「ねね、そーいえばっ、さっきのなんて言ったかわかった?」
「さーな」
「あ、はぐらかしてる」
「どうしてそう思うの?」
「辰星がはぐらかすときはいっつも斜め見るもん!」
「そうとは限らないかもよ?」
「う〜〜〜。ね、わかった?」
「どっちだと思う?」
くすくすと辰星が笑う。
もう、絶対遊んでる・・・。
「あくあは真面目だなぁ〜。ま、そこがいいんだけど」
「もう・・・」
そう口ではごまかしながらも、わかってるんでしょう?
わたしが言ったこと。
いつもそう。
辰星はなにかにつけてわたしをからかうんだから・・・。
真面目で、優しいのに、そーゆートコあるんだよねぇ。
でも、いいよ。
わからなかったのなら言葉にするだけだから。
「辰星」
「んん?」
「好きだよ、だーい好きっ」
「なっっ・・・」
突然のわたしの言葉に辰星が赤面した。
「あははっ。辰星かわいー」
「んだよっ」
ぱしっと手をとられる。
「そのくらい知ってら」
「・・・・・・うんっ」
手をつないだまま、帰り道を進む。
ねぇ、いつまでこうしていられるかな。
いつまでわたしは隣にいていい?
未来の事なんてわからないけど・・・でも・・・
ずっとこうしていられればいいな、って思うよ・・・。
秘密をばらしたら、わたしがわたしでなくなるわけじゃない。
秘密がばれてしまったら、わたしがいなくなってしまうわけじゃない。
秘密を持っていない人なんて、そんなにいないよね。
誰にだって、ひとつやふたつ、秘密はあるはず。
でも、それを知られてしまったら、その人がその人じゃない誰かになってしまうことはないでしょう?
どうして、そのことに早く気がつかなかったのか、少し不思議。
“あくあ”が“あくあ”じゃなくなるとき。
それはこの世からわたしがいなくなるとき、かな。
わたしが、わたしじゃなくなるなんてことは、絶対にないから。
わたしは、わたしのままでいたいから。
『あくあがあくあでいてくれるならかまわないよ』
その言葉が、すごくすごく、嬉しかったんだよ・・・。
人魚の姿でも、人間の姿でも、わたしはわたし。
それならかまわないって言ってくれるのがすごく嬉しかったんだよ・・・。
だって、やっと気がついたの。
何があっても、わたしがわたしであることに変わりはないんだって―――・・・。
** Fin **
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