『幸せの魔法』
「いっくよーっ」
「お、おいっ。ちょっとまった!」
「えーいっ」
隼人が止めたのにも関わらず、勢いよく杖をふった。
次の瞬間。
ぼんっ。
大きな音を立てて爆発した。
「ありゃりゃ・・・またやっちゃった」
「〜・・・みあ!!なーにやってんだよっ。おれはちゃんと止めたんだぞ!!聞いてなかったのかよ!」
「ごっめーん、隼人。またやっちゃった」
「お前ってヤツはぁ〜・・・」
わなわなと拳をにぎりしめて隼人が言った。
「どーしていっつもいっつもできないんだ・・・?こいつは・・・」
「そ、そんなこと言われたって、あたしは知らないよーぅ」
「みあ〜・・・お前は悪魔だな・・・」
「ひっどーいっ」
ぱんぱんっと服についたほこりを払いながら立ち上がる。
ここは魔法界。
いわゆる、魔法使いがたくさん住んでる場所。
むかーし昔、大昔に、人間界にいた魔法使いたちが創り上げた世界だって学校で習った。
昼よりも夜の方が長くて、月が煌々と輝く所。
人間との混血がだいぶ多くなってきて、本当に魔法を使える人は少なくなった。
だから、パソコンみたいなの使ったり、コントロールされてる杖を使う人が多い。
でも、そのなかでも純粋な魔法使いはちゃーんといるんだよ。
で、学生さんは学校に行くんだ。
普通の魔法が使えない・魔力のない人の行くとこ、
混血・もしくは魔力の弱い人の行く準魔法学校、普通に魔力があって、
でも、自力じゃ魔法の使えない人の行く魔法学校、
そして、純血の魔法使いで魔力も十分にある、自らで魔法を使える人の行く高等魔法学校。
人間界に留学しちゃう人もいる。
あたしはそのなかの高等魔法学校に通ってるの。
一応、純血の魔法使い。
だけど、すっごい落ちこぼれ。
全然魔法、使えないの。
「みーあっ、やってるー?」
「あみ!」
ぱたぱた、あみが走ってきた。
あみは同学年のあたしのお姉さん。
誕生日が一年違わないので同学年。
ふんわりしてるんだけど、怒るとすごくこわい。
魔法も上手であたしとは正反対の人。
あたしは、元気だけがとりえで、明るいだけがとりえで、魔法は落ちこぼれ。
「なんだ、あみ。終わったのか?」
「うん。隼人ちゃんは?」
「俺はこいつの指導係。あみはよくできるのに、どーしてみあはできねーんだろうなぁ」
「あははは・・・」
隼人は幼なじみで先輩。
3歳も年上。
隼人もエリートさんで、成績トップ!
そのうえ容姿がいいから下級生にモテモテ。
あみは「隼人ちゃん」って呼んでるけど、あたしは「隼人」ってよぶ。
だって、
「みあに『ちゃん』付けされたくねー!呼び捨てでいいからっ」
って隼人が言ったんだもん。
性格も性格だし、「隼人ちゃん」なんてガラじゃないのは自分でもわかってるけど・・・。
「みあったら・・・また失敗?」
「うん・・・」
「ま、みあならいつかできるようになるわよ。わたしの妹だし。一応純血だし」
「うん・・・がんばっちゃうもん!」
「さーてっ。今日はここまで。そうだ、明日試験あるの知ってるか?」
「試験?」
あたしとあみが声をそろえて言った。
試験なんてやめてーっ。
「試験っても、適性検査みたいな…能力検査みたいなものなんだ。だから気軽にやってこい」
「はぁい」
「そっか。よかったー・・・」
ほっと、胸をなで下ろす。
落ちこぼれが一番恐れてるのは試験。
だって落第したくないもん。
ふわっ。
空を舞う。
あたしにできる魔法のひとつ。
空を飛ぶこと。
箒に腰掛けて、あみとふたりで帰り道をいそぐ。
「ねえ、みあ」
「ん?」
「どうして空は飛べるのに、簡単な魔法ができないのかしらね?」
「うーん・・・わかんない」
「だって、空を飛ぶことは高度魔法のひとつなのよ?隼人ちゃんでもできるかどうか・・・」
「知ってるよー、そのくらい。でも、やったらできちゃったんだもん」
「案外、わたしよりみあの方がすごいのかもねー」
「そうかなぁ・・・」
昔から、飛ぶことだけはできた。
箒にまたがって、ちょっと地面を蹴ると、ふわりと浮いたあの日。
まだ5歳くらいだったかな・・・。
あれから8年経ったけど、あんまり進歩してない気がする・・・。
トン。
家の玄関前に降り立つ。
一応、旧家だし、名前も知られてる家柄。
だからかな、どどーんっと大きなお屋敷。
ここがあたしたちの家なんだ。
「ただいまー・・・」
「おっかえりなさいーっ」
ぎゅううっと、あたしとあみの足下に妹のさなとえなが抱きついた。
「ただいま、さな、えな」
「いい子にしてた?」
「うんっ。えな、いい子にしてた」
「さなもいい子にしてたっ」
妹のさなとえなは双子。
4歳なんだ。
「おかえりなさい、あみ、みあ」
「お母様・・・」
「ただいま戻りました」
「学校はどうでしたか」
「楽しかったですよ」
「またドジっちゃいましたー」
「あらあら、みあったら、また?気をつけないとね」
「はーいっ」
ホール(玄関のこと)から階段で上に上がって、長い長い廊下を歩いていく。
そして、自分の部屋にたどりついた。
「みあ様、みあ様っ」
ぱたぱたと精霊のシアがやってきた。
「シア、ただいま」
「おかえりなさいです〜、みあ様」
女の子でとってもかわいいんだ。
ふわふわしてて、ちょっとあみに似てるの。
「みあ様っ、今日はいかがでしたか?」
「んー・・・今日もドジっちゃった。まーた隼人に迷惑かけちゃったよう」
「隼人様がご指導だったんですね」
「うん。どーしてダメなんだろうなぁ・・・」
ぽすっとベッドに寝転がる。
「シアにはわかっていますよ。けれど、それを知ったところでみあ様には得になるかどうかわかりませんから言いません」
「シアはわかってるの?」
「もちろんです。精霊は自分で主人を選びます。
シアは一目見たときから、みあ様にお仕えしようと思いました。
みあ様には特別な力があります。そう感じるのです。一番大好きなみあ様のこと、いつも知っていたいですから」
「へぇ・・・じゃ、たとえばあたしのどんなところを知ってるの?」
「みあ様はー、元気で、明るくって、いつも楽しそうで、
でも心の中ではいろいろ考えているお方です。魔法が上手く使えないけれど、
高度魔法だけはいくつかできたりして、悩んでらっしゃいます。
誰にでもお優しくて、気づかいしてくれる優しいお方です」
「そう・・・ありがとう。でも、それって、他の人でもわかること何じゃない?」
「じゃあ、教えてあげますよー。みあ様の秘密」
「あたしの秘密?」
秘密なんてあったかな・・・。
「みあ様はー、隼人様のことがお好きなんですーっ」
「なっ、に、っちょ・・・」
「あったりですー。他の人は誤魔化せても、シアは誤魔化せませんですよー」
シアがくるくると回りながら言った。
「〜・・・何で・・・」
「みあ様を見ていればわかりますよ。シアはみあ様の精霊ですから」
「あ、あみには言わないで・・・あみは・・・」
「・・・みあ様は本当にお優しい方ですねー」
あたしは・・・隼人が好き・・・。
でも、あみも隼人が好き・・・。
それはあたしが一番よくわかってる・・・。
好きって気持ちは止められなくて、どんなに高度な魔法でも消せないって先生が言ってた。
だから、この気持ちはあたしだけにしまっておこうって。
伝えるべきのものじゃないって・・・わかってるもん・・・。
「みあ様?」
シアがぱたぱたと羽をはばたかせながら、あたしの顔をのぞき込んだ。
「へーき。シアはあたしの一番の友達だね」
「はいっ。シアは様さまのことが大好きですっ」
「あたしも、シアのこと大好きだよ」
「えへへ・・・」
精霊は誰にでもつくものじゃない。
精霊自身が認めた人じゃないとつかない。
シアはあたしが10歳のとき、
「あなたに決めましたっ。シアと申しますっ」
っていきなり目の前に現れたの。
ふわふわの髪。
かわいらしい衣装。
シアはお砂糖菓子みたいにかわいらしいんだ。
あたしの大好きな、あたしだけの精霊。
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