一週間後。

待ち合わせの場所に早く来てしまった。
だって、いてもたってもいられなかったの。
部屋でじっといい子にして時間を待ってなんかいられなかった。
ゆるむ頬を隠せない。
ドキドキする胸の鼓動を隠せない。
あなたに会えるという、それだけのことで、こんなにも嬉しくなる。
どうしようもなく、嬉しくてたまらない。


「歌音!」

愛しい人の声がわたしを呼んだ。

「湊っ」

ついっと泳いできて、わたしのことをぎゅうっと抱きしめた。

「歌音・・・久しぶり」
「久しぶりね・・・湊」

強く強く抱きしめられる。
それが嬉しくて、わたしもきゅっと腕を回す。

「歌音・・・歌音・・・本物だ・・・」
「・・・どうしたの・・・?湊?」
「・・・会いたかった・・・」
「うん。わたしも・・・会いたかったわ」
「会いたくて会いたくて・・・どうしようもなくて・・・」
「うん・・・」

痛いほどに抱きしめられる。
どうしたの・・・?
何か、あったの・・・?
いつもは、そんなに強く抱かないのに・・・。

「ごめん・・・俺・・・もう限界だよ・・・」
「み・・・なと・・・?」
「こんな・・・年に数回しか会えなくて・・・」
「仕方ないわ、お仕事だもん」
「・・・いつも不安なんだ・・・歌音が・・・ 俺じゃない誰かに・・・とられるんじゃいかって」
「そんなこと、絶対にないわ」
「それ以上に・・・俺が我慢できなくなりそうで・・・」
「湊・・・?」

そっと、腕をほどいて距離をあける。
どうしたの・・・?
いつも弱音なんて吐かないのに・・・。
いつもはそんな苦しそうな声・・・しないのに・・・。
そんな顔をしないで・・・。

「ねぇ、湊。わたしここにいるよ。大丈夫」
「・・・歌音」
「何?」

「・・・結婚しよう」

「え・・・」
「もう離れていたくない・・・側にいて。いや、側にいさせてくれないか・・・」
「湊…」
「手の届く距離に歌音にいてほしい・・・。 ほんと、情けないけどさ・・・俺、歌音が好きで好きで・・・ どうしようもないんだよ」
「・・・・・・わたしも・・・湊のこと好きで・・・大好きで・・・。 でも、わたし、湊のこと縛るなんてできないよ・・・」
「え?」
「わかってる・・・?わたしと結婚するって意味・・・わかってる・・・?」

それは王女と結婚するということ。

「わかってて言ってる」
「わたしが王室を出るんじゃない。湊が王室に入るんだよ・・・?」
「知ってる」

わたしが王女をやめることは許されていない。
わたしたち王女と結婚するということは、王室に相手が入ることになる。
そして、この世界では離婚は許されていない・・・。

「湊・・・今の仕事・・・好きで選んだんじゃない・・・。 やめなきゃいけなくなっちゃう・・・」
「仕事より、歌音がいい」
「色んなこと言われるのよ・・・?たくさんたくさん・・・良い事も悪い事も・・・。 それに、公務で表に出なきゃいけない事がたくさんある・・・」
「知ってる。昔からのつきあいだから」
「・・・それに・・・」
「全部わかってる。それを承知で言ってる」
「・・・・・・」
「俺が望む事はひとつだけだよ。歌音が、側にいてくれればいい。 歌音の側にいさせて欲しい」
「本当に・・・?」
「ああ。歌音は・・・嫌じゃない?今みたいな生活」
「・・・寂しい・・・けど・・・でもっ」
「もう一度言うよ。・・・俺と結婚してください」
「・・・・・・・・・はい」

ぎゅうっと再び湊がわたしを抱きしめた。
つうっと涙がつたう。

わたしは・・・湊を縛りたくなかった・・・。
王室という鎖で・・・自由を奪いたくなかった。
だから、結婚なんて出来なくても良いと思ってた。
会えなくても、寂しくても、頑張ろうと思ったの。
でも。
でも・・・。
本当は側にいて欲しかった。
ずっと、ずっと、わたしの一番近くにいて欲しかった。
こうして抱きしめてくれる距離に、いてほしかった・・・。
大好きだから。

「歌音・・・愛してる」
「・・・わたしも・・・愛してる・・・。・・・本当に・・・側にいてくれるの・・・?」
「永遠に」
「・・・ありがとう・・・」

望むことはただひとつ。
側にいて欲しい・・・。
純粋に、その気持ちを・・・受け止めてくれるのね・・・。