『海と空の青〜特別な時間〜』



「あー!冬休みなんて、ほんっとあっという間ね!あと3日欲しい」
「綾ちゃん、それ去年も聞いた気がする」
「恒例行事だと思っておいて」

3学期初日。
いつものようにあたしの髪をいじりながら綾ちゃんが言った。
クリスマス・イヴの日に会って以来、約2週間ぶりの再会になる。
綾ちゃんは年末年始は遠方のおばあちゃんの家に家族揃って行っていて、つい2日前に帰ってきたってメールをもらったのが昨日のこと。

「綾ちゃん、宿題は終わったの?」
「当然よー、そこはバッチリ」
「綾ちゃんがそんなこと言うなんて珍しい」
「ふっふっふ・・・今回はね、イトコのお兄ちゃんもおばあちゃんちに来ててさ、教わっちゃったんだー」
「へえ・・・!」
「あの人、性格は微妙なんだけど頭はいいの。だから宿題はバッチリ!」
「なるほど。いいなー。あたし、やったけど中身に自信はないよ」

宿題が完璧なのが嬉しいのか、あたしの髪をいじれるのが楽しいのか、どちらかは定かじゃないけど、 綾ちゃんが上機嫌であたしの髪をブラッシングする。
冬休みの宿題は、問題プリント数枚・・・が5教科分に、書き初めをしてこい、というもの。
たった2週間なのにね・・・。

「そういえば、クリスマスはどうだった?空井君、なんか言ってた?」
「ふえ!?」
「まりんってば、メールの一つもよこさないんだもん。気になってたんだからね!」
「あ、うん、ごめん・・・」
「で、どうだったの?」

クリスマス・イヴの日、聖夜君との待ち合わせ前にあたしを全身プチ変身させた綾ちゃん。
“今度、空井君の反応きかせてよね”
そう言ってたっけね・・・。
トリートメントした髪をふわふわに巻いてくれて、ちょっとお化粧もして、普段あたしが絶対しないマニキュアまで塗ってくれたんだ。
聖夜君も可愛い格好、とは言ってくれたけど・・・。

「えっと・・・ストレートヘアーの方がいいって」
「は?」
「ほら、髪、巻いてくれたじゃない。どっちが好き?って聞いたら、まっすぐなほうがいいって」
「・・・・・・・・・そう。他には?」
「あ、最初見た時一瞬わかんなかったって!」
「・・・・・・・・・そう」
「あたし、髪巻いたりお化粧したりしないもんねー。学校で許されてる限りのアレンジだし、一人だと全然なんにもしないから」
「あー、うん、そうね。まったく、あの男・・・」
「?」
「なんでもない!空井君の好みはストレートね。りょーかい!」

少し不満そうに綾ちゃんが言った。
あたし、事実を言っただけなんだけどなあ・・・?

「それで、ちゃんと話せたの?」
「うん。大丈夫。心配させてごめんね、綾ちゃん。ありがと」
「ま、ちゃんと話せたならいいってことよ」

そう言いながら、綾ちゃんはパチンと、あたしの髪にバレッタをつけた。

「これ、お土産ね。帰ったら見て」
「えーっ、先に見せてくれないの?」
「もうつけちゃったもん。さあ!そろそろホームルームよ!」
「綾ちゃんのいじわるー」

なんだかんだ言いながら、綾ちゃんはあたしたちのこと心配してくれてたんだよね。
ありがとう。
そう、綾ちゃんの背中に向かってつぶやいた。