『海と空の青〜聖なる夜〜』


キーンコーンカーンコーン・・・。
定期試験最後の時間の終了を告げるチャイムが鳴り響いた。

「止め!はい、後ろから答案回してー」

試験監督の先生が合図をして、一斉にガサガサと紙をかき集める音と「おわったー!」という歓喜の声があがり始める。
5教科+技術家庭・音楽・美術を足した計8教科の2学期定期試験がこれにて終了!

「まりん!どうだったどうだった?」
「綾ちゃん。んー・・・理系だけはどうにかなったらいいなって感じかな」
「数学ねー、今回難しかったよね」
「あたしにはいっつも難しいからよくわかんない」
「ははっ。それより、あたしは英語がダメすぎて赤点取ったらどうしようって感じだよー」
「リスニング問題、聞きにくかったもんね」

そんな試験の感想があちこちでささやかれてる。
12月上旬。
すっかり冬の空気になって、教室ではストーブが焚かれてる。

「そういえば、さ」
「ん?何?」
「空井君、会ってるの?」

綾ちゃんがちょっとにやっとしながら言った。

「・・・少しは、ね」
「やだもう、そっけないなー。付き合ってるくせに、あんたたちって、ほんっとベタベタしないよね」
「ベタベタって・・・」

一体どこでしろっていうのよ!
心の中で思いっきりツッコミを入れる。
夏前に知り合って、夏から付き合ってる、その・・・恋人、である空井聖夜君は、 あたし水海まりんのいる2年1組から遠く離れた2年5組に在籍している。
校舎内でも移動教室がある時にすれ違えばいい方というくらい、学校内では会うことがないし、お互いに部活動も違う。
授業の合間の10分休みや、昼休み、放課後、案外時間はないもので、 同じ学校の同じ学年にいるなんてウソみたいなほど、あたしたちは会う事がない。

「全校生徒の前で恋人宣言してるんだから、どこでだって二人でいてもいいじゃない」
「う・・・あれは不可抗力っていうか・・・」

体育祭の借り人競争で運悪く(いや、大当たりだから運は悪くないのかもしれない・・・) 『好きな人、恋人』を引き当ててしまった聖夜君のせいで、 全校生徒と来場してた保護者の前で恋人宣言させられるはめになったのは、つい2ヶ月前のこと。
確かに、それで色々と助かったこともあるし、よかったこともあるけど・・・。
だからといって、見世物になるのはゴメンだもの!
あたしも聖夜君も今まで通り、特に接点を深めるわけでもなく接してきた。
一部の人からは「もしかして別れたの?」とまで言われる程度には、校舎内で会ってない・・・けど・・・。

「別に、あたしたちがどこで会おうといいでしょっ」
「ハイハイ。で、最近ちゃんと会ったの?」
「最近は試験勉強とかあったし・・・そういえば会ってないかも・・・・・・でも、急に何で?」
「んー・・・いやね、あそこ」

ピッと綾ちゃんがあたしの後ろを指さす。
後ろに何かあるの?
振り返ってみたけれど、特になんてことないいつもの風景が広がっているだけ。

「まりんからは見えないと思うんだけど、あそこ。廊下。空井君がいるんだよね」
「なっ!先にそっち言ってよ!!」
「あー、ほら、別の人とか先生に用かなって思ったんだけど」
「・・・・・・確かに、呼び出されてない、けど」
「まあまあ、行ってきなって!愛しの彼でしょ」
「綾ちゃん!!!!!」

ケラケラと笑う綾ちゃんに思いっきりそう言ってから、あたしは席を立った。
もう、もう、もう!!
綾ちゃんってば絶対おもしろがってる・・・!
でも・・・からかってる、とかいうわけじゃないのよね・・・。
綾ちゃんが指し示した扉から廊下に出ると、確かにそこには聖夜君がいた。
そういえば、きちんと会うのは2週間ぶりくらい、かも・・・。
久しぶりに会う聖夜君が、なんだか懐かしくなってしまう。
おかしいな・・・そんな風に思えるなんて・・・。
毎日・・・とは言わないけど、メールもしてたのに。

「・・・まりん」
「久しぶり、聖夜君。テストお疲れ様。何か1組に用事?」

聖夜君の前で立ち止まると、聖夜君が少しだけ口の端を持ち上げて笑った。
あれ?少し・・・元気ない?

「いや、用事っていうか・・・・・・うん」
「誰?呼んでくるよ」
「・・・いい。もう済んだから」
「え?」
「あー・・・おまえ見に来ただけ」
「・・・見に来た・・・?」

会いに来たじゃなくて、見に来た・・・?
せっかく1組まで来てくれたなら、声をかけて会って行こうって・・・思わなかったってこと?

「ああ。じゃ、チャイム鳴る前に戻るな」
「う、うん」

そう言うと、聖夜君は時計を確認してから足早に1組前を後にした。
何だったの・・・?
それにしても、聖夜君、どうしたんだろ・・・。
まさか、落ち込むほど試験が出来なかった・・・とか・・・・・・。
・・・・・・ううん、そんなことないよね。

「空井君、どしたの?」

ひょこっとあたしの後ろに綾ちゃんが突如現れる。
きっと今のやりとり、見てたんだろうなあ・・・。

「どうしたんだろうね」
「あら、やっぱりおかしかったんだ」
「うん・・・何かあったのかな」
「さあ、あたしが知ってるわけないけど・・・あれは問い詰めた方がいいんじゃない?」
「問い詰めるって・・・・・・うん・・・」
「ほら、そろそろホームルーム始まるから戻ろう」
「はーい」

ほんと、どうしたのかな・・・。
あんな歯切れの悪い聖夜君、見た事がない。
それに、わざわざあたしを見に来た、とか絶対おかしいよ・・・!
今日は金曜日。
いつも聖夜君は放課後に鳥籠カフェに行く曜日。
ここ2週間は試験前だから行ってなかったけど、今日は行ってみよう!