『海と空の青』


いつもと変わらない朝。
朝特有の少し薄い青い空が眩しくて、 教室の窓から遠くに見える海が、チカチカ光ってる。
だんだん夏に近づく季節。
緑が青々と茂っていて、さわやかな季節。


パタン。
読み終えた分厚い本を閉じる。

「あーあ・・・」
「なーにため息ついてるの、まりん」
「綾ちゃん!おはよう」
「おっはよ」

とすんっと、あたしの前の席に座ったのは、親友の高木綾ちゃん。
サバサバした性格でとっても元気な子。

「ははーん、さては、そのぶっ厚い本を読み終わったな?」
「そう、もう読む本がないのよ」
「まりんの本好きも大したものね」

そう言いながら、綾ちゃんは自分の鞄から、ヘアメイク道具一式を取り出した。

「今日はどんな髪型にしようかなぁっ」

そう言ってあたしの後ろに立つ。
綾ちゃんの日課は、あたしの髪をいじること。
長い長いストレートヘアのあたしの髪をいじるのが、楽しくて仕方がないんだって。
家が美容室をやっているから、綾ちゃんも美容師になりたいと言ってる。

「じゃあさ、今日、確か新刊入るから図書室行ってきなよ」
「ほんと?」
「掲示係が言うんだから間違いない。 さっき新刊お知らせプリントもらってきたもんね。 どーせその本返すんでしょ?」
「うん。なんか面白そうな本あるかなぁ」
「さあ?」
「目を付けてた本は全部読んじゃったからな・・・つまんない」
「じゃあ、目を付けてない本を読めばいいんじゃない? それか、新しいのを本屋で買うしかないわね」
「本屋でなんか買えないよ、高いもん。一冊二千円なんて出せない!」
「文庫は?」
「文庫って新書が元の場合が多いんだもん」
「本好きも大変ね。さ、でーきたっ。文学少女なまりんに、今日は三つ編みよ」
「ありがと」

長く綺麗に編まれた三つ編み。
文学少女が三つ編みっていうのは、どこから定着したのかしらね・・・。




「はい、一週間後までに返してね」
「うん、ありがとう」

放課後、図書室で新しく入った本を一冊借りた。
真新しい図書カードの一番上に名前を書き込む。
何だかとても嬉しくなる瞬間。
公立中学校には、まだ電子管理機能なんてついていないから、 こうして図書カードシステムが残っている。
自分専用のカードと、本付属のカード。
本に付くカードには、たくさんの名前が書かれている。
みんなが同じ本を読んでいると思うと、少し楽しくなってくるの。
だって、自分と同じ本を読んでいる人がいるって思うと嬉しいから。

「あ、ごめんなさい、それ今借りられちゃって・・・」
「マジ?じゃ、予約お願い」
「はーい。水海さん!」

図書室を出る瞬間、カウンターから名前を呼ばれる。
今日の係は3組の林さん。
常連のあたしとは顔なじみになってる。

「何?」
「たった今その本予約入ったから、返すときはカウンターに預けて!」
「了解っ」
「よろしくね」

林さんと目を合わせて、にこっと笑った。
カウンターにいる男の子が、あたしの事をじっと見ていた。
・・・ごめんなさい、本、先に読ませてもらうね。
そうして図書室をあとにした。

そっか・・・読みたい人がいるんだ・・・。
じゃあ、早く読んで返さないとね。


それが、あたし、水海まりんと彼との出会いだった。