『人魚 〜マーメイド〜』 ちゃぷ・・・ん。 暁の朝の海。陸からじゃよく見えない沖。 ほら、この時間なら人間はいないでしょう?だから私たちは顔を出せるの。 人魚 人間はそんなものお伽話だと言う。 人魚も妖精も天使も悪魔も魔法使いも・・・神様 さえも。 みんなみんな、人間が作り出したお伽話で夢の世界なんだと・・・。 でもね、嘘じゃないんだよ。みんなみんな存在してる。 だって、ここに人魚がいるじゃない。 たいていの人間には見えないの。 人魚も妖精も天使も悪魔も魔法使いも神様も・・・。 お伽話として信じられてるのは見えない人が多すぎるから。 見た人が語った物語 を、見えない人が作り話として広めちゃったから。 ちゃんと存在してるんだよ。 人魚も妖精も天使も悪魔も魔法使いも神様も・・・。 小さい頃は誰にでも見えたの。一番最初の友達は妖精だから。 でも、大きくなる と見えなくなっちゃうんだって。人間って不思議だよね。 私は海の住人。マーメイド。 ほら、優雅に水の中を泳げるし、呼吸だって水の中のほうが楽。 深い深い海の底 まで知ってるわ。 でもね、時々見たくなってこうして海の上まで泳いでくるの。 海の上にはるかに広がる青い空。海の底まで光を届ける太陽。 私たちが知らない 陸・・・。 私は海の世界が好き。 人魚の仲間や魚たち、イルカやクジラやアシカさん・・・。みんなが大好き。 でも陸にも憧れる。 綺麗な衣服。素敵な小物。高い教会に大きなお城。 ダンスを踊る男女や音楽を奏 でる人達・・・。 人間になりたい。 そう思った伝説の王女がいたけれど、私は人間になりたいだなんて思わない。 だって、海の中のほうが自由で素敵で好きだから。 でも、人間の友達がいたら素敵だなって思う。お互いの世界を教えあうの。 ね、素敵でしょう? 日が完全に昇ってしまう前の時間。砂浜近くまで来てみた。 浅くてうまく泳げなかったけど、砂の感覚と、引いては寄せる波が楽しくてく すぐったかった。 陸の砂はさらさらで、風が吹くと流れてしまった。 初めての体験でぞくぞくする 。 髪がこんなふうになびくのも初めて。髪ってこんなに軽かったのね。 しっぽだけは、ぱしゃぱしゃ寄せる波にひたりながら、私は砂の感覚にしびれる 。 陸って初めてがいっぱいね。 「あなた・・・人魚・・・?」 女の子の声に顔を上げた。 私のことが・・・人魚のことが見えるの・・・? 「ホントに人魚さんっているのね!私感激!!」 キラキラと目を光らせる。人間の・・・女の子・・・。 「どうしたの?まさか打ち上げられちゃったの?」 女の子がしゃがみこんで私のことを見つめた。 「ち、違うわ・・・。あなた…私のこと見えるの・・・?」 「ん?ちゃんと見えてるよ」 この世界に・・・まだ私たちが見えるくらい純粋な心を持った子がいるなんて・・・。 嬉しくなって、涙がこみあげてきた。 「ど、どうしたの!?どこか痛いの?」 「ち、違う・・・違うの・・・。嬉しくて・・・」 「え?」 「私たちのこと見えるヒトがまだいるなんて・・・嬉しくて・・・」 「くすっ。私ちゃんと見えるよ。妖精さんも天使さんも。 まさか海にいる人魚さ んに会えるとは思わなかったけどね。 みんな見えないって、いないって言うけど 、私はちゃんと見えるよ」 女の子がにこっと笑って言った。 「ね、お友達になろうよ。私、エマイユよ。エマって呼んで。16歳の女の子で ーす」 そう元気よく言ってウインクした彼女はやはり純粋なんだとわかった。 汚れなき 心をもつ女の子・・・。 「わ、私は・・・メル・・・メルよ」 「メルね。年はいくつ?あ、それとも聞いちゃいけなかった?」 「ううん・・・15今年で16なの」 「わ、歳近いね!うれしーい。ね、いつもここに来るの?」 「今日が初めてよ・・・暁の時間と星空の時間にしか上に出られないから・・・」 「そっかぁ。でも、これからは来る?私毎日散歩してるんだ。夜も来るようと思 えば来れるし」 「あ、うん・・・そうね・・・来ようかな。ねぇ・・・」 「ん?」 「陸のこと・・・いろいろ教えてくれる?」 「・・・もちろん!じゃあ、私にも海のこと教えてね!」 すっとエマが立ち上がった。 「ええ。あ・・・そろそろ陽が昇るわ・・・私帰らなくちゃ」 「そうなの?ねえ、今夜会 える?」 「・・・ええ!必ず!」 くるりと海の方を向く。 「またね、メル!」 「うんっ」 ざん・・・。打ち寄せて来た波を利用して海に帰る。 後ろを振り返ると、エマが大きく手を振ってくれていた。 かるく手を振って、私 は海の世界に帰った。 素敵なことが起こっちゃった! 私たちのことが見える女の子。 しかも、気持ち悪 いとも言わず、不思議がってもいなくて、 笑顔が可愛くて素敵な心を持った女の 子。 友達になっちゃった。 色んなこと聞けるかな?陸の色んなこと・・・。 私たちじゃ想像も出来ないことがま だまだありそうだもの! 私も教えてあげる。海の中の、人間が知らない世界を。 人間が知っている海なん てわずかなんだから・・・。 人魚も妖精も天使も悪魔も魔法使いも神様も・・・。 みんなみんなココにいる。 人間 の近くで生きている。 人間が見えていないだけなのよ・・・。 自然の力を信じて・・・。私たちのことを信じて・・・。 私たちはすぐそばにいるから・・・。 ** Fin** |