そして、10月最初の土曜日。 めでたく、晴天の中(日差しが強くて暑いから全然めでたくは思えないんだけど!)体育祭は開始された。 超がつくインドア派としては、朝の点呼から始まり、1日のほとんどを外でグラウンド で過ごさないといけないなんて苦行みたいなものだけど・・・ちょっとしたお祭り気分で見逃すことにしてる。 鳴り響くピストルの音、放送部の実況中継、お決まりとも言えるようなBGMの数々。 今年の放送部の実況は、お決まりの「○組がんばってください」みたいなのじゃなくて、 テレビの実況中継みたいなノリで、聞いててもおもしろいかな、と思えた。 「まりん、着替えなくて良いの?」 「着替えるわよー着替えますとも」 お昼は各自教室でとること、ということで、教室で綾ちゃんとお弁当を食べ終えた。 午後一番の競技は部活対抗リレー。 午前中は徒競走や選抜リレーみたいなガチの運動系競技が多い中、午後は部活対抗や全員リレーといった団体競技が増える。 その最初が部活対抗リレーというわけ。 どうやら昼休み着替えとかの準備ができるから、という理由みたい。 「まあ、剣道部みたいに袴に防具とかじゃないだけいいじゃん」 「そうだけどね。制服で校庭走るのもやだよ。あ、綾ちゃん、着替えたら髪やってくれる?」 「もちろん。さ、更衣室いってらっしゃーい」 すごすごと制服を持って教室を出る。 体育祭の日は体育着登校が許されてるのに、このリレーのためにわざわざ制服一式持ってきてるのよ・・・。 気が進まないながらも女子更衣室で制服に着替え、再び教室に戻ってくると、さあこっちへどうぞ、 と言わんばかりに机にヘアブラシやヘアピンを準備した綾ちゃんに出迎えられた。 「読書部だもんねー。やっぱ三つ編みかなー♪」 「邪魔にならなければそれでいいよ」 「ふふふ。三つ編みのセーラー服姿の女子が文学的な本を片手に校庭を走る!」 「すごい違和感のある言葉だね・・・」 「これで眼鏡があったら完璧だったわね!だて眼鏡用意すればよかったー」 「眼鏡じゃないことに感謝しておくわ」 うきうきと綾ちゃんがあたしの髪をブラッシングして、綺麗に2つに分けると、慣れた手つきで細い三つ編みを完成させていく。 ハチマキをピンでとめて、さあ、完璧よ!と、ものの5分程度で仕上げてくれた。 「そいえばさ、空井君は?見かけないけど」 「??」 「いや、あんたたちつきあってるんだよね?」 「うん・・・それが?」 「あー、うん、まあいいや」 「・・・・・・部活対抗リレーは出るって言ってたよ」 「そういうことじゃないんだけどなー」 綾ちゃんがポーチにがさがさとブラシとかを片付けながら “ま、ベタベタするようなキャラでもないか”と言って1人こくこくと頷いていた。 つまり・・・一緒にいないよねって言いたいんだろうな・・・。 でも、1組と5組は遠いし、わざわざ会う用事もないから・・・・・・それとも、普通のカップルはそうじゃないの!? 「よし、校庭移動しよっか。楽しみだなー、部活対抗♪」 「そうだね」 そう、見てる分には面白いのよ、この競技・・・! 当然、運動部と文化部で分かれてるんだけど、正式なスポーツ競技衣装ですら、まるでコスプレして走っているように見えるのよね。 剣道部の防具と袴、水泳部のキャップとゴーグル(さすがに水着はやばいらしい)、野球部やサッカー部のユニフォーム・・・といった具合。 ボールがバトンの部活はちょっと走りにくそうだけど。 文化部は制服の割合が増えるからそこまでじゃない。 吹奏楽部は指揮棒、コーラス部は楽譜、美術部は制服+ジャージに筆、理科部はビーカーという具合に、小道具が変わるくらいだから。 我が読書部は図書室から「一番新しい芥川賞受賞作品」を借りてきてバトンにしてる。 技を披露しながら走るとかじゃなくて、ほんとうによかったわ・・・。 本を読みながら走れるわけないもの。 「よ!はやいな」 部活対抗リレー出場者待機場所で、ぽんっと肩を叩かれた。 振り向くと、そこにいたのは・・・ 「聖夜君!」 「・・・普段と何も変わらないな」 「当然です。読書部ですから」 「本を含めて、だよ。あえていうなら、本のジャンルが違うくらいか」 「そうだね。こんな純文学、あたし読まないもの。・・・聖夜君は何番走者?」 「3番。本を持ってるところからすると、そっちは1番か」 「アタリ。お互い気楽にいこうね」 「ま、そうだな」 いつものワイシャツにズボン。 それに、絵の具でところどころ汚れているジャージを着た聖夜君。 あたしもだけど、聖夜君だって普段と何にも変わらないじゃない。 体育祭なのに、今日初めて会うのが“いつもと同じ”だなんて、変な感じ。 「はーい!出場者のみなさんはちゃんと並んでー」 係の人が号令をかけて、午後1番のお楽しみ競技の始まり始まり。 「おっつかれー、まりん」 「綾ちゃん・・・」 「なによ。そんなにくたびれなくてもいいじゃない。たかが3回走ったくらいで」 「そんな予定じゃなかったのよう!」 ぐったりしながらクラス応援席の自分の席へと腰を下ろした。 部活対抗リレーは簡単に言うと予選2回と決勝戦があって、勝ち抜き方式でトップが決まる。 まさか、他の部員が足が速いなんて想定外だったわ・・・。 読書部なのに! 予選二回を勝ち抜いてしまった我が部は決勝戦まで3回も走ることになるなんて・・・。 一回100メートル。合計300メートル! トラック1周半分! しかも結果は4位という微妙なところ。 できることなら予選一回で負けたかった・・・。 美術部も健闘して、予選二回目までは走ってたけど、まさか読書部が・・・ねえ・・・? 部員によると、短距離はいいんだけど長距離は全然ダメ、というタイプ揃いみたい。 「まあまあ、ちょっと休んでから着替えに戻りなよ。次の出番まだ後でしょ」 「うん・・・」 「それに、この次は借り人競争よ。楽しみじゃない!」 「借り人競争ね・・・。封筒の中の紙に指定された条件に合う人を連れてくるっていうやつだっけ」 「そ。田中って人を連れてこい、とか、眼鏡の人、とか、そういうものらしいよ」 「ふうん・・・」 借り物競走の人バージョンね・・・。 確かに、面白そう。 「ん?」 「何?綾ちゃん」 「いや、あそこ、空井君じゃない?」 「・・・ほんとだ」 借り人競争出場者の中に聖夜君の姿があった。 この競技は各クラス男女2名が出ることになってる。 当然学年の男女別対抗。 そういえば、なんの種目に出るのか話してなかったな・・・・・・。 借り人競争に出るなんて知らなかった。 「やっぱ美術少年は走りたくないんだろうかね」 「タイムは悪くないみたいだけど、自主的にやりたいわけじゃないんじゃないかな」 「まりんと同じね」 「あたしはどっちかというと遠慮したい方」 「あ、ほら、1年生から開始よ。あたし前の方行くね」 「はーい」 パアンというスタートを告げる音が鳴り響いて、1年生が駆け出し始めた。 トラックを半周してから、グラウンド中央に置いてある封筒の元へと走り、そこでひとつ選び開封。 中に書かれた指定に合う人物を連れてゴールまで走る、というものだった。 『佐藤って名前の人!』『サッカー部の人』『眼鏡の人』『ポニーテールの人』 『身長150センチ以下の人』などなど、その指定は大まかなモノから詳細なものまで様々みたい。 中には『数学の先生』や『○年○組出席番号○番台の人』なんていうピンポイントなものまで。 考える方は大変だっただろうなあ・・・なんてついつい考えちゃう。 「あれ、水海さん、まだ制服だったの?そろそろ着替えないとまずいんじゃない?」 「そうかな?」 「教室まで歩くと結構かかるよ」 「そっか。そうだね。ありがと、浅田さん」 「うん。読書部おつかれでした!」 「あはは」 プログラムだけみればまだ余裕だけど、そうね・・・歩く時間も計算しなきゃだった。 聖夜君の出番は歩きながら見れそうだし、移動してもいいよね。 「綾ちゃん、あたし着替えにいってくるね」 「空井君応援しないの?」 「歩きながら応援する」 「はいはい。行ってらっしゃい」 パンパアンっと軽い音が鳴り響いて1年生の出番が終わった事を告げた。 次が2年だけど・・・うん、移動しないとね。 制服のスカートを少し整えてから、応援席を後にした。 その間に2年男子第一レースのスタートを告げるピストル音が鳴り響く。 「・・・聖夜君、やっぱり足速いじゃない」 ついうっかり足を止めてグラウンドを見てしまう。 聖夜君は2番手で封筒のもとにたどり着き、一番手近なところの封筒を開封した。 と、思ったら、一瞬固まったのがわかった。 そんなに難しいことが書かれてたのかな・・・? ほかの走者がバッと振り向いてお目当ての人物を捜すべく客席に目を向ける中、聖夜君はダッと走り出した。 なんだ、簡単だったみたいね。 ゆっくり歩くのを再開したとき、聖夜君があたしのクラスの席まで来たのがわかった。 「高木さん!」 「おや、空井君。誰をお探し?」 「〜〜〜〜ま・・・水海、どこ?」 「!」 綾ちゃんと聖夜君が会話してるのが見えたけど、さすがに声はよく聞こえないな・・・。 聖夜君の指定はまさか『高木』? そう思っていると、綾ちゃんが立ち上がってぶんぶんと手を振りながら 「まりーーーん!」 と叫んだ。 「????」 あたしのことを呼んでいる意味もよくわからずに、ひらひらと手を振り返す。 「あそこ」 「サンキュ!」 すると、綾ちゃんと話していた聖夜君がそのままこっちへと走ってきて、 「まりん!」 そう大きな声で言った。 滅多にあたしの名前呼ばないのに・・・! まわりにいた人たちもなんだなんだ、とこっちに視線を向けてくる。 グラウンドから少し距離があったので、びっくりしながらグラウンドに近づいた。 「ど、どうし・・・」 「いいから、来て」 「え?」 「借り人競争、おまえが指定なんだ」 聖夜君はパシッとあたしの手をつかむと、勢いよくグラウンドへと引き込んだ。 制服姿のままのあたしは、きっとやたらと目立っていると思う。 「ちょっ・・・」 「走るよ」 「なっ・・・!」 一体なんの指定なのよ・・・!! そう思いながらも聖夜君が手を繋いだまま走り出したので、あたしもつられて走り出す。 『水海』なんて珍しい名字が指定されることないだろうし、まさか「おさげの女子」とか!?「制服」が指定だったこともありえる・・・のかな。 理由を知らされないままゴールまでたどり着くと、順位は2着だった。 再びグラウンドを制服で走ることになって、不本意ながらちょっとムッとしてしまう。 「ちょ、いきなり、ひどいよ」 「・・・悪い」 「別にいいけど・・・指定なんだったの?」 「・・・・・・ごめん」 「?」 どうして謝るんだろう・・・? なにか謝るような指定があったの?! なんだろう・・・思いつかない・・・・・・。 順位順に整列し、全クラスがゴールするとそこで『答え合わせ』になった。 愉快な放送部員兼判定員がゴールの先でワイヤレスマイクを片手に待ち構えていた。 そして、今になって連れてこられたときに繋がれたままの手に気づいた。 このままだと、おかしく思われちゃうんじゃない・・・? 「あの・・・聖夜君、手・・・」 握られたままの手を指摘すると、離すどころか、聖夜君はぎゅっと力をいれて握ってきた。 ・・・・・・・・・?? こんな面前で、手をつないでていいの・・・? 「まず、1着は3組!はい、連れてこられた方は学年クラスお名前をどうぞ」 「2年3組、渡辺大貴です」 「指定は「渡辺」でした!3組OK!」 この答え合わせは不成立だと1つずつ順位が繰り下がるというペナルティ付き。 3組も奇数組仲間だから、よかった、とちょっと胸をなで下ろす。 それにしても、聖夜君、手・・・離してくれない・・・んだけど・・・どうしたんだろう。 「お次は2着、5組!はい、指定書下さいねー・・・って、おお、今回3枚だけ入ってる大当たりを引き当てたようです!」 「大当たり・・・?」 「はい、ではお連れの方どうぞ」 「えっ、と、2年1組、水海まりん、です」 「初の大当たり、その内容はずばり『好きな人・恋人!いない場合は好きな教科の先生』!」 「っ・・・!!」 その放送部員の大げさな紹介に、おお・・・!っという声がひときわ大きく上がった。 待って!待って待って待って!! つまり、えっと、その、これって・・・っ。 半分、告白大会的なっ・・・っ?! ちらりと聖夜君を見ると頬を染めながら、『こんな指定入れたヤツ許さない』とでも言いたそうな表情をしていた。 ううう・・・・・・。 「それで、5組の空井君、彼女はどっちかな?」 「・・・・・・・・・こ・・・恋人、です」 「〜〜〜〜〜〜〜〜」 もうやだ!恥ずかしい!! 空いている手でパッと顔を覆った。 こんな、全校生徒の前で恋人宣言とか、有り得ない!! 一体なにがどうしてこんなことになってるの・・・! 「おおー。水海さん、間違いないですか?」 そんな楽しそうに言わないでよ! ああ、もう・・・穴があったら入りたい・・・。 でも・・・・・・でも・・・・・・! 「・・・はい」 短くそう返事をして、パッと聖夜君の手を離すと後ろに隠れた。 もう体育祭なんて中止になればよかったんだ・・・! ううん、そもそも聖夜君のくじ運がいけないんだわ・・・! こんなところで大当たりなんて引き当てなくていいのにっ。 「恋人宣言頂きました!合格!では、3着ー・・・」 きっといま、ひどい顔してる。 聖夜君に好きだよって言ったときより、きっと赤くなってる。 告白するより恥ずかしいなんて・・・! 「・・・まりん、怒った?」 「怒ってません・・・」 「じゃあ隠れるなよ」 「今、見せられる顔してないから・・・!」 「でも、ほら、退場しないと」 「ふえ!?」 終わったレースごとに退場するシステムのこの競技(連れてきた人をかえすためでもある)。 全員の答え合わせが終わったらしい。 聖夜君がまたパッとあたしの手を取ると、そのまま歩き出した。 「ね、ねえ、手」 「今さらだと思う」 「うう・・・」 「恥ずかしがる方がからかわれるぞ」 「聖夜君のせいだよっ」 「おれだって!・・・・・・・・・・・・恥ずかしいんだっての」 少し照れたままの口調で、あたしの前をずんずん歩いて退場門まで連れて行ってくれた。 そして退場門では 「まりーーーん!!」 と綾ちゃんが満面の笑みで迎えに来てくれていた。 「綾ちゃああああん」 聖夜君の手をふりほどいて、そのままの勢いでぎゅっと抱きつく。 背の高い綾ちゃんはあたしを受け止めると優しくぽんっと背中を叩いた。 「よしよし、頑張った頑張った。もう、空井君ったらねえ?」 「高木さん・・・顔が笑ってる」 「ごめんごめん。ほら、あたしは二人のこと知ってたからさ。でも、これで学校中公認カップルだね」 「別に、隠してたつもりないし」 「本人がどう思ってようと、事実は違うの。でもさ、空井君。きいていい?なんで嘘ついて好きな教科の先生つれてかなかったの?」 「・・・・・・・・・いや・・・あそこで先生を連れて行ったら、おれ『好きな人いない』ことになるわけじゃん」 「そうね」 「それはちょっと・・・嫌かな、と」 「空井君は自分に嘘がつけない人、と」 「そんな綺麗ごというつもりじゃねーよ。それに、嘘ついて違うヤツ頼んで連れてっても 『そいつのことが好き』ってことにされちゃうわけだし、それはこいつにもひどいと思うし」 「ふむふむ」 「・・・・・・つきあってるのは嘘じゃないし・・・牽制にもなるし、いいんじゃないかと」 「なるほど、ごちそーさまです!」 「あ、あたし!悪いとは言ってないよ!ただ、その・・・・・・・・・恥ずかしかったんだからああ」 「それはお互い様だって言ったじゃん」 コツンっと綾ちゃんに抱きついたままのあたしの頭を聖夜君が小突いた。 ああ、もう・・・こんなことで許せる気になっちゃう自分がちょっと嫌だ。 恥ずかしかったけど、恋人だって言ってもらったのは少し嬉しかった。 人前じゃ、滅多にあたしのこと名前で呼ばない聖夜君が『まりん』って呼んでくれたのが嬉しかった。 手を繋いでくれたことも・・・。 「あのー、まりんさん?抱きつく相手間違ってません?あたし空井君じゃないよ」 「間違ってません!」 あたしたち、つきあってるっていっても、まだ二ヶ月で! 手もそんな繋いだことなくて! そんな、抱きつく、なんて、無理!! さっきだって、名前呼ばれて、手つないだだけで、ドキドキしたのに。 「まりん、ほら、制服着替えてきなさいよ。この調子じゃあんた走りっぱなしになるよ」 「・・・うん」 「校舎まで送る」 「え、いいよ聖夜君」 「いや・・・このまま一人でクラスに戻ると冷やかされそうだし」 「じゃ、お二人さん、行ってらっしゃい!そうだ、空井君!」 ぐいっと綾ちゃんがあたしのことを引き離して、くるりと聖夜君のほうに向けた。 「まりんの名前、呼ばないのはわざとなの?」 「・・・・・・・・・・・・まあね」 ・・・綾ちゃん、気付いてたの・・・? 聖夜君があたしのこと名前で呼んでるって・・・。 普段呼ばないから、きっと名字で呼んでるって思ってると・・・。 ・・・ああ、さっき競技中に聞こえてたのかな・・・。 聖夜君とふたり並んで校舎の方へと向かって歩く。 「・・・聖夜君」 「・・・・・・」 「聖夜君ってば」 「そういえば・・・」 「な、なに」 「おれのこと、そう呼ぶのって二人だけだな」 「・・・?」 「美沙子さんとおまえ」 「・・・そう」 美沙お姉ちゃんは名前で呼ぶのに、あたしのことは“おまえ”なんだ・・・。 ううん、前からそうだもん。 いいんだけど・・・いいん、だけ、ど・・・・・・。 やっぱりちょっと、もやっとしちゃう。 「・・・まりん・・・って、あんまり呼ばないのは、さ」 「う、うん」 「別に嫌だとか隠したいとかじゃなくて・・・慣れてないから、だから」 「・・・それだけ?」 「人前で呼ぶことはちょっと避けてた、けど」 「どうして?」 「だから!・・・恥ずかしいだろ。今まで名字で呼んでたのに・・・」 「・・・・・・そっか」 そっと、聖夜君の手に自分の手を絡める。 その様子に気付いて、聖夜君があたしを見た。 きゅっと、やさしく握り返される手。 聖夜君って、本当、見た目に反して照れ屋さんなんだよね。 最初の頃、もっとクールな人かと思ってたもの。 でも、それがなんだか嬉しくもある。 照れるくらい、思ってくれてるってことなんだもんね。 「でも、じゃあ、これからは呼んでくれるの?」 「・・・・・・」 「呼ばないと慣れないよ?」 「・・・・・・まりん」 「はい」 「まりん」 「はいっ」 「・・・・・・そんな嬉しそうな顔するな」 「え?」 あたし、嬉しそうだった? 「誕生日の時もそうだったよな・・・そういえば」 「名前のこと?」 「そう」 「だって、なんでだろうね」 「?」 「特別に聞こえるんだよ」 「・・・そう」 自分の名前なのにね。 聖夜君が呼んでくれると、特別に聞こえるの。 きっと、それは、あたしが聖夜君のことを好きだから、なんだよ。 その後、全校生徒前で告白大会になりそうだった大当たりカードを引き当てた二人は、「好きな教科の先生」を連れてくることで免れたよう。 つまり、恋人宣言をさせられたのはあたしたちだけだった、ということになる。 隠してないわよ・・・隠してないけど・・・やっぱり恥ずかしかった。 でも、そのおかげなのか、お互いのクラスを訪ねても、一緒にいても特に恥ずかしいこともなく、 みんな暗黙の了解といわんばかりに接してくれて楽にはなったかな。 聖夜君も、よく名前を呼んでくれるようになったし、ちょっとずつだけど手も繋いでくれるようになって・・・ 色々と体育祭のおかげなのかもしれない。 秋空の下で恋人宣言をするなんて、きっともう一生ないだろうな。 **Fin** |